国が医療機関に支援金を出して推し進めている『マイナ保険証』の普及策。現在、キャンペーンの真っ最中です。マイナ保険証を優遇するなどの状況が生まれ、病院や薬局の窓口で“戸惑いの声”が上がっています。

武見厚生労働大臣(4月):「5月、6月、7月と3カ月間『マイナ保険証利用促進集中取組月間』、総力を挙げて取り組んでまいります。医療現場においては、窓口での呼びかけが重要です」

マイナ保険証の利用者を増やした病院には最大20万円。クリニックや薬局には最大10万円が支給されます。

東京都中野区にある薬局では、これまで患者に「お薬手帳」と「保険証」の持参を呼び掛けていましたが、先月から「マイナ保険証」の利用を呼びかけることにしました。

遠山薬局薬剤師・遠山伊吹さん:「こちらが我々のマニュアルです。厚労省から配布されまして、それに沿って、患者さんにお声掛けして、持っていない方にはマイナ保険証のメリットを説明して、作り方をご案内する」

これまで数々の不備が指摘されたマイナ保険証。なかなか思うように利用が広がらないのが現実です。

遠山薬局薬剤師・遠山伊吹さん:「いかに浸透させるかというのを、国からではなく、現場の薬局や医療機関にゆだねられている面があるので、なかなか時間と労力がかかる段階だと思う。こちらの声掛けの仕方も工夫が必要で、『次回から持ってきてください』とか『作ってください』と強く言ってしまうと、患者さんも気になってしまうので、柔らかく説明するようにしています」

ただ、別の薬局では、驚くようなケースもありました。
先月、ぜん息の症状がひどくなり、職場近くの薬局に駆け込んだ男性。マイナンバーカードを持っていましたが、保険証としての登録はしていませんでした。

従来の保険証で処方を断られた人:「処方せんと普通の保険証を出したら、処方せんは受け取ってくれたが、保険証は受け取ってくれなくて。薬局のスタッフから『普通の保険証の受付はできなくなりました』『マイナ保険証のみの受付になります。マイナンバーカードはお持ちですか』と。本当に苦しくて、薬が欲しかったんで、しょうがなくマイナンバーカードを、そのときに初めて保険証と紐づけて、受け付けてもらいました。(マイナ保険証を)強制的に使わされた、紐づけさせられたというのが、ちょっと怒りを覚えています」

男性は、転職などもしておらず、保険証は“有効”です。なぜ、このような対応になったのでしょうか。

男性が駆け込んだ薬局:「厚労省の指示に沿った呼びかけを行ったが、それが強制と受け止められたかもしれない。今後、どのような伝え方をすればよいのか、社内で検討している」

混乱はほかにも。
関東のクリニックに通う女性。医師から、突如、告げられたのは“マイナ保険証の優先診察”です。女性は、マイナ保険証の利用登録をしていないため、順番を後回しにされても受け入れるしかないといいます。

従来の保険証で診察が後回しになった人:「『次回からマイナカードじゃないと後回しになります』と言われた。自分が、一番、最初に来ても、そのあとにマイナカードを持っている人がどんどん来たら、自分は、段々、あとになる。ちょっとした嫌がらせをして(マイナ保険証を)作らせようとしているように感じました。行くのが嫌になっちゃいますけど、持病の特性上、その先生にはかかり続けないといけない」

この“マイナ優先診察”を打ち出すクリニックは、ここだけではなく、複数の医療機関で始まっていました。
クリニックA:「受付での本人確認が簡単なマイナ保険証の患者を優先すれば、待合室の混雑が解消される」
クリニックB:「マイナ保険証に切り替えた人が一気に来ると、説明が大変でパンクする。今のうちに切り替えてほしいので優先している」

マイナ保険証の利用登録は、あくまで“任意”です。

こういった現状について、厚労省は。
厚生労働省:「マイナ保険証の利用自体は推進しているが、マイナ保険証の利用者を優先してくださいとも、区別しないでくれとも示したことはない」

◆そもそも、従来の健康保険証もまだ使えるのでしょうか。
12月1日までに発行された保険証は、経過措置が設けられ、最長1年間は有効です。マイナ保険証を持っていない人には『資格確認書』が交付され、保険証として利用可能で、有効期限は最長5年です。つまり、こうしたものがあれば、保険証として使えます。

一方で、厚生労働省によりますと、マイナ保険証の利用率は6%ほどにとどまっています。普及を進めるために、政府は、さまざまな対策を行っています。
●マイナ保険証の利用者を増やした病院に最大20万円、クリニックや薬局に最大10万円の一時金を支給
●利用率が高い医療機関や薬局を表彰

こうした取り組みに対し、マイナンバー制度と法律に詳しい中央大学の宮下紘教授は「マイナ保険証の利用率が高い医療機関に政府が一時金を出すので、マイナ保険証の患者を優先的に取り扱うという現象が起きているのでは。本来あるべき医療の質を高めることより、マイナ保険証の利用率を高めることに焦点が移っている」と指摘します。

保険証の種類によって、患者の扱いを変えるのは法的に問題ないのでしょうか。

宮下教授は「事務手続きの短縮など、合理的な理由があれば、優先順位をつけることに法的な問題はない」としています。

ただ、『薬剤師法第21条』には、正当な理由なく、調剤の求めを拒んではならないとあります。『医師法第19条』には、正当な理由なく、診察治療の求めを拒んではならないと規定されていて、宮下教授は「保険証の種類で、患者が受けられる医療行為に差があってはならない。“マイナ保険証を使ったから優先”というのは、患者に寄り添った方針ではない」としています。

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