奈良県発注の新型コロナウイルス関連業務で委託料を過大請求したとして、県は5日、旅行大手のJTB(東京都品川区)に約6375万円の損害賠償を求める訴訟を起こすと発表した。委託料の見積もり段階での想定よりも、実働したスタッフの数が少なかった事例があったのに、見積額のまま請求されたといい、差額分の人件費の支払いを求める。【川畑岳志】
県は2021~23年、感染防止対策施設の認証などコロナ関連事業について33件計約176億円分の業務をJTBに委託していた。県によると、契約はJTBが見積もった金額を上限として、実際にかかった費用を県が支払うという内容だったという。
ところが、県が業務実施状況を確認するためJTBに対してシフト表などの資料を請求したところ、9件について委託料の見積もりでの想定より少ない人数で業務をしていたなどの実態が明らかになった。県が計算したところ、人件費は当初の見積もりより計約6375万円少なくて済んだという。
これとは別に、JTBが書類の提出を拒否したことで勤務実態が把握できていない事業が10件以上あり、それも含めると、見積額と実際の人件費の差は最大で2億円を超える可能性もあるとした。
県は、見積額と同額の費用がかかったとするJTBが作成した実績報告書を基に委託料を支払った。しかし、県監査委員は23年7月、JTBに委託した事業の一つの定期監査をした際、担当である県消費生活安全課(当時)に業務実施状況の確認が不十分であると口頭で指摘。担当課がJTBにシフト表などさらに詳細な資料を請求したことで過払いの疑いが判明した。
委託料は支払った後だったため、県は3月下旬、JTBに約6375万円を返すよう求める書面を送付。その後も文書でのやりとりを進めたが、支払われる見込みがつかなかったため、提訴に踏み切ったという。県は県議会の6月定例会に報告した後、奈良地裁に提訴する予定。
契約書には「委託料に減額が生じたときには、その額を委託料とする」という趣旨の記載はあったが、具体的な手続きについては記されていなかった。県によると、JTBは「見積額をそのまま支払う契約と認識していた」と主張したという。
県は報告書に記された勤務実績が実態と合っているかを確かめずに、「うのみ」にして委託料を支払っていた。県庁で記者会見した山下真知事は「確認をしなかったことについては県にも落ち度があった。職員の処分は考えていないが、今後はきちんと精査するよう庁内に通知を出した」と話した。
JTB「県に説明と協議求めてきた、驚き」
山下知事はJTBの対応について「契約書どおりに実績を報告せず、過大な請求をしたことや、指摘したのに任意の返還に応じてもらえなかったことに憤りを感じる」と話した。一方、JTBは「履行内容の確認や検収も完了している案件。契約の内容からは想定しなかった返金要請で、県に説明と協議を求めてきた。一方的な訴訟提起の発言に驚いているが、誠実に対応していく」とのコメントを出した。
事業にかかった費用の大部分は国の補助金や交付金で賄われた。県は他に新型コロナ関連業務を委託していた7社については問題は見つからなかったとしている。
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