君塚直隆さん=2023年11月2日撮影

 他の国にはまねできない交流史が刻まれる――。英国政治外交史が専門で世界各国の王室事情に精通する君塚直隆・関東学院大教授は、天皇、皇后両陛下の英国訪問に期待を寄せる。155年に及ぶ皇室と英王室の交流。「戦争で敵国となった歴史もありますが、歴代の日英君主のきずなは深い」と語る。【聞き手・山田奈緒】

 世界的なコロナ禍で延期になってしまいましたが、本来は2020年春、両陛下にとっての令和初の国際親善訪問が英国になるはずでした。英国が選ばれたのは、皇室と王室の強いつながりも理由の一つですが、英国側の事情もありました。欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)に直面していた英国にとって日本との関係強化は重要であり、エリザべス女王が国賓として招待をしたわけです。

 コロナ禍が収束に向かっても、日本政府はなかなか訪問を再調整できず、その間にエリザベス女王が死去したのは非常に残念でした。ですが、両陛下が葬儀へ参列し、直接的に弔意を示された意味は大きかったと思います。

 外国王室の葬儀へは、皇族が参列するのが通例である中での天皇陛下の参列でした。この対応は、在位した70年間にわたり英国民の敬愛を集めた女王への敬意はもちろん、招待に応じられなかった心苦しさもあったことでしょう。

 欧州内の王室との交流を除けば、英王室と皇室は一番古い付き合いがあります。1869(明治2)年、ビクトリア女王の次男アルフレッド王子が英王室から初めて来日し、近代日本にとって初の「国賓」を明治天皇が歓待しました。この来日を機に、相互の訪問が始まります。

 第二次世界大戦で敵国となって交流が途絶えたものの、エリザベス女王は戦争の記憶が色濃く残る1971年、訪英した昭和天皇に手を差し伸べ、和解を印象づけました。75年には英国君主として初めて来日。皇室も王室も互いに敬意を払い、戴冠式や即位の礼への出席など、親しくもてなしあってきました。

 日本は英王室から海外賓客への応対など、外交儀礼を多く学びました。また、英国で国民に寄り添う立憲君主の鏡とされたジョージ5世(在位1910~36年)の生き方から、昭和天皇も上皇さまも影響を受けていることは、過去の発言などから明らかです。

晩さん会を前に写真撮影に応じるフィリップ殿下、エリザベス皇太后、上皇ご夫妻(当時は天皇、皇后両陛下)、エリザベス女王=ロンドンのバッキンガム宮殿で1998年5月26日(代表撮影)

 明治から数えて日本は5代、ビクトリア女王から数えて英国は7代に及ぶ交流です。天皇陛下は10代のころからエリザベス女王と交流があり、オックスフォード大への2年間の留学経験もあります。チャールズ国王は皇太子時代、大阪万博や陛下の即位の礼などで5回、来日しています。

 いわゆる「皇室外交」は、政治的な意味合いを脇に置いて積み重ねられた大事な各国とのきずなです。皇室と英王室は国同士というよりむしろ、「大事な友人」の付き合いなのでしょう。歴代の君主同士の深い親交はもちろん、家族ぐるみの交流があります。それは一朝一夕で他の国がまねできる関係性ではありません。皇室と王室のきずなが、日本と英国のパートナー関係を深めてくれていると考えます。

 まもなく、昭和、平成、今回の令和と、3代続けて天皇の国賓での訪英が実現します。天皇陛下とチャールズ国王はどのような歴史を積み重ねていくのでしょうか。過去の戦争の歴史も踏まえ、新たな時代の幕開けとなる期待感が高まります。

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 きみづか・なおたか

 1967年生まれ。英国政治外交史と欧州国際政治史が専門。君主制の歴史を研究。「ジョージ五世 ―大衆民主政治時代の君主―」「エリザベス女王 ―史上最長・最強のイギリス君主―」「君主制とはなんだろうか」など著書多数。

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