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若者を支援する団体を取材していると、こんな話を聞いた。

「電話相談や電話占いを利用している若い子たちがすごく多いんです」

「電話相談」とはどんなものなのか、気になって検索してみると、たくさんのサイトが出てきた。
「悩みお聴きします」、「何でも話せます」という言葉とともに、顔写真や似顔絵のアイコンが並ぶ。1分で100〜500円ほどの料金が設定されている。

若者たちはどんなことを相談しているのか。なぜ身近な家族や友達ではなく、決して安くはない料金を支払って、見ず知らずの相手に悩みを打ち明けるのか。

(テレビ朝日デジタルニュース部 笠井理沙)

■2週間かけ続けた電話 「知らない人に話したかった」

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愛知県に住む20代の女性は、半年ほど前に初めて「電話相談」を利用した。

「その日は一緒に住んでいる彼氏も家にいなくて、なんとなく寂しいなと思っていました。誰かと雑談でもしたいなと思って。話を聞いてくれるサイトがあることは知っていたので、そこで良さそうな人を探しました」

ずらっと並ぶカウンセラーの中から選んだのは、女性のカウンセラーだった。手書きの似顔絵のアイコンを見て、「優しそうな人かな」と思ったという。

女性は職場での悩みについて話してみようと、電話をかけた。初めてで少し緊張したが、電話から聞こえてきた柔らかな声に安心した。

「会社にどうしても合わないなという人がいて、何度か社内の人にも相談していました。でも、なんかそうじゃないんだよねっていうアドバイスしか返ってこなくて、もどかしさみたいなものを感じていました。カウンセラーの女性に話をしてみたら、丁寧に聞いてくれて、私が悩んでいる原因を一緒に考えてくれました」

初めての電話から2週間ほど、女性は毎日カウンセラーに電話をした。職場の悩みだけでなく、家族のこと、これまでの生い立ちについても話をした。2時間近く話す日もあり、料金が2万円を超えた日もあった。それでも、女性は話を聞いてほしかったという。

「カウンセラーの方に言われて気がついたのですが、親と同年代の人が苦手だということが分かりました。嫌なことだったので、ずっと蓋をして何も考えないようにしていたのですが、小さいころから親に暴力を振るわれていて。そのことが根本的な原因だと気がつきました。問題が解決したわけではないのですが、カウンセラーの方に苦手な人との付き合い方などアドバイスをもらえて、気持ちに余裕が持てるようになりました」

利用の回数は減ったものの、女性は今でも月1回、カウンセラーに電話をして、近況などを話している。

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■相談件数は年々増加 10〜20歳代の利用者は倍に

■相談件数は年々増加 10〜20歳代の利用者は倍に

女性のように、「電話相談」で不安や悩みを打ち明ける人は増えてきている。

「エキサイトお悩み相談室」では、17年前から電話のカウンセリングサービスを提供している。相談は、6年ほど前から右肩上がりに増加。「電話占い」のサービスと合わせると、相談件数は今年3月までの1年間で23万件を超え、過去最高を記録した。利用者の中心は30〜40歳代だが、ここ数年は10〜20歳代の利用者が倍増しているという。チャットやメールのサービスも提供しているが、売り上げの90%以上は電話のサービスだ。

「エキサイトお悩み相談室」のサイト

スキルマーケット「ココナラ」でも、「悩み相談」のサービスを提供している。心理カウンセラーなどが電話で相談を受け付けていて、相談できる窓口は5万件を超えている。

「ココナラ」では当初、相談サービスをチャットだけで提供していた。しかし、「すぐに相談したい」というユーザーからの声が相次ぎ、10年前から電話相談サービスの提供を始めている。

■親にも友達にも相談できない理由

「電話が苦手」とも言われる若者たち。あえて電話で相談するのはどうしてなのか。

「声を聞いて、元気になりましたとか、声の抑揚とかで安心するって言ってくださる方も多いですね」

そう話すのは、「エキサイトお悩み相談室」のカウンセラー、長野美奈子さんだ。保護司として活動する長野さんは、10年ほど前からカウンセラーとして電話相談を受けている。コロナ禍を経て、大学生や20歳代前半の社会人などからの相談が増えていて、すぐに話をしたかったと電話をかけてくる人が多いという。

カウンセラー 長野美奈子さん 「自分が何に悩んでいるか分からないんですとか、大学に行けなくなってしまったとか。過呼吸になってしまって苦しいんですとか、すぐに話を聞いてほしいという方もいます。中には、孤独を感じてどうしていいかわからない、消えてしまいたいというような深刻な方もいます」

家族との関係が悪い、悩みを話せるような友達がいないといった、相談できる相手がいないという人は、これまでも多くいたという。

しかし、ここ数年は違う傾向があると、長野さんは感じている。

「家族も仲が良く、親も自分を大事にしてくれるという方が多いです。そういう方にご両親に相談してみたらと伝えると、『親に迷惑かけたくないんです』とおっしゃるんです。友達に聞いてみたらと言っても、『どう思われるかが気になって』と。友達に相談する前にどう思うか聞いてもらいたかった、という方もいました」

家族や友達には相談しにくいと話す若者たち。長野さんは、「本当の自分を出せない」と悩んでいる人が増えてきていると感じている。

「明るいとか、元気とか、周りからよく思われようと振舞っているけど、本当はそうではないと。本当の自分を出せないという方もいます。悩みとか深い話をしてしまうと友達にバレてしまうのではないか、SNSに書き込まれてしまうんじゃないかと。孤独感が非常に強いなという印象を受けますね」

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■課金するから話せること

■課金するから話せること

「ココナラ」のサイト

「ココナラ」で悩み相談を受けているカウンセラーのまるみさんは、相談してくる若者たちのあきらめにも近い思いを感じている。

「これを言ったら嫌がられてしまうだろうからやめておこう、相談しても分かってもらえない、解決しないだろうなという感じになっている気がしますね。相談の内容が重いと、相手に迷惑をかけるんじゃないかとおっしゃる方もいます」

「相談をためらう」という声は、若者や支援団体を取材する中で耳にしたことがある。行政機関やNPO法人による無料の電話やチャット相談は用意されている。それでも、思いがけない妊娠で悩んでいた女性は、「相談したら、怒られるかもしれない」と相談できずにいたと話していた。10代のころに家出を繰り返していた女性は「相談しても何も変わらないと思った」と話していた。

話を聞いてほしいと「電話相談」を利用する若者たちにも、そんな思いがあるのかもしれない。

まるみさんは、相談を通して、話がしたいという若者たちの強い思いを感じている。

「極端なことを言えば、アドバイスはいらないのだと思います。これは違うとか、もうちょっとこうしたらいいとか、そういうことはいらない。とにかく話がしたいという感じがしますね。そうなると、お金を払って、全く知らない人に話す方が、素直に話せるんでしょうね」

カウンセラーの長野さんやまるみさんのサービスを利用する若者のほとんどは、リピーターだという。週1回など定期的に「電話相談」を利用し、近況を報告したり、不安を打ち明けたりしているという。

■居場所のない若者たち

「エキサイトお悩み相談室」のカウンセラー、長野美奈子さんは、相談を通して、居場所を求めるような若者たちの不安に向き合っている。

「安くはないお金を出してくださっているので、本当にどうしようもなくなって、電話をしてきてくれるのかなと感じますね。若者たちは、本当に居場所がないんだなと感じます。ちゃんと向き合って話せるような相手がいない、そういうところから生きづらさみたいなのを感じるのかなと思います」

以前、若者に居場所を提供しているNPO法人の活動を取材した。週1回開く居場所には、開始時間前から列を作って若者たちが集まっていた。スタッフと学校や趣味の話題などを話して帰る人もいれば、家族との関係を相談する人、学校やバイト先で人間関係をうまく築けず孤独を感じていると相談している人もいた。

スタッフが、ゆっくり時間をかけて話を聞くことで、徐々に悩みや不安が和らいでいるような人もいた。中には、行政の支援を受けたり、医療機関を受診したりしている人もいるが、それでも「じっくり話を聞いてほしい」という若者たちのニーズがあるのだと感じた。

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■「社会の問題が自分の問題になってしまう」

■「社会の問題が自分の問題になってしまう」

「話を聞いてほしい」と、拠りどころを探すような若者たち。その「生きづらさ」はどこからきているのだろうか。

「雇用だとか社会の中の自分の生存基盤が安定していない人っていうのは、多いんだろうなという感じがします。自分の人生の展望が見えないから、誰かに話さないとつぶれてしまう、話す相手が必要で電話占いとか電話相談に向かうのかなと思います」 早稲田大学 阿比留久美教授

そう話すのは、早稲田大学の阿比留久美教授だ。阿比留教授は、若者たちが、社会が望ましいとするルートに縛られ、生きづらさを感じやすくなっているのではないか、と指摘する。

「学校を卒業して正社員になる、結婚して子どもを産むみたいな周りから望ましいとされるルートがあって、そういう枠組みから外れてしまうと、すごくしんどさを感じるのだと思います。普通に生きなくてはいけない、普通ではない自分は世の中に居場所があるのかというような気持ちになってしまう」

阿比留教授は、多様な生き方を認められるよう、社会が変化していくことで、若者たちの生きづらさをなくしていけると考えている。

「本当は誰も誰もが好きな生き方をしていいのだけれど、自己責任社会だから結果は自分で引き受けましょうねと。そうすると、非正規にしかなれない私が悪い、子どもができて仕事を辞めなくてはいけないことも仕方がないみたいになってしまうと思うんですよね。本当は社会の問題であることが、自分の問題になってしまうというところもあるのではないかという気がします」

社会が大きく変化する一方、若者たちの手本となるような生き方のモデルは、大きく変わっていないように感じる。阿比留教授は若者たちが目指せるようなモデルを、社会全体で示していくことが重要だと指摘する。

「枠組みから外れて生きることはすごくしんどいのだけれど、でも時代の流れとともに実は少数派ではなくなってきている。若者たちがそのことに気づいて、行き場がないような社会に問題がある、だからどうすればいいのかと社会の側を問うていくような動きが出せたらなと思います。上の世代も、社会で望ましいとされるような生き方とは異なるモデルを若者たちが見られるような機会を作っていくことで、若者たちが救われることが多くなるのではないかと思います」 この記事の写真を見る(9枚)
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