福岡県内の自宅で寝ていた小学生の長男の首を絞めて殺害しようとしたとして、殺人未遂罪に問われたシングルマザーで無職の女性被告に対し、検察側は29日、福岡地裁(冨田敦史裁判長)で開かれた裁判員裁判の公判で懲役3年、保護観察付き執行猶予を求刑した。執行猶予の求刑は異例。検察は長男が今後も女性との生活を望んでいることなどを考慮したとみられる。公判はこの日で結審し、判決は30日。
起訴状によると、女性は2023年10月29日昼ごろ、自宅で寝ていた長男の首を絞めて殺害しようとしたが、自らの意思で中止したとされる。長男は頭部うっ血で約1カ月のけがをした。女性は今月28日の初公判で起訴内容を認めていた。
公判では検察側の冒頭陳述などで、女性が離婚後に出産した長男に軽度の知的障害があったことなどが明らかにされた。弁護側は、女性には事件当時、複数の精神疾患があり、次第に自殺願望を抱くようになったが、関係機関に相談しても相手にされず、無理心中を図ったと主張した。
検察側は29日にあった論告で「発達障害の子を1人で養育していたにせよ、犠牲にすることを安易に考えた。経緯に酌量すべき事情に乏しい」と批判。一方、過去の同種の事件では執行猶予付きの判決となるケースが多いと指摘した上で「長男が母親と生活することを望んでいる」とも述べ、保護観察付き執行猶予を求刑した。弁護側も執行猶予付きの判決を求めた。
元刑事裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は「刑事裁判官時代、明らかに執行猶予が相当な事件はたくさんあったが、検察が自ら求めたことは一度もなかった。検察の立場上、被告に有利な求刑はしないという慣行だったのだろう。今回は検察が事件に至った経緯などを踏まえ、執行猶予が妥当だと明示した形で画期的だ」と話した。【志村一也】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。