クジラの化石発掘へ、寄付を呼び掛ける山田桂教授=長野県松本市の信州大理学部で2024年5月22日午前11時28分、鈴木英世撮影

 約270万年前の大型クジラの化石を発掘、研究する資金を募るクラウドファンディング(CF)を信州大理学部(長野県松本市)などが始めた。同大の山田桂教授(古生物学)らが秋田県能代市で発見した化石で、クジラの大型化の謎の解明につながる可能性がある。山田教授は「全容を明らかにし、化石が失われないように保存したい。皆さんにもぜひ見てもらいたい」と協力を呼び掛けている。

 発見された化石はヒゲクジラとみられ、その仲間には、世界最大の動物「シロナガスクジラ」などがいる。

 2020年7月、白神山地のふもとの能代市二ツ井町で地質調査をしていた山田教授と学生らのチームが見つけた。全長は推定15メートルほど。これまでの研究で270万年前はクジラの大型化が進んだ時代と考えられており、進化の過程を調べる上で貴重な発見だという。

下顎の化石の発掘の様子=山田桂教授提供

 同年以降、新しい化石の発掘が続き、23年には長さ約4メートルの下顎(したあご)の化石が掘り起こされた。しかし、発掘現場は林道から5メートルほど下の小川沿いで、重機や車両は入れない。現状では人力で運ぶしかなく、大きすぎる下顎は現地に残されたままだ。発見から4年近くたち、風化の恐れが高まっている。

 早急な発掘が求められるが、運搬に新たな機材が必要なうえ、人手を集めれば交通費や滞在費がかかる。資金面が大きな問題になった。

 山田教授は本来、大きさ1ミリ以下の微細な生物「貝形虫」の化石を通して当時の地球の様子を調べることが専門。大学の研究費は年約10万円にとどまり、専門外のクジラの研究には、日本学術振興会が交付する科学研究費も申請できない。「研究のためには、自分で資金を獲得しなければならないのは分かるが、すぐに成果が出て評価を受けることにしか予算が付かない。『直接の専門ではないけど手を広げてみよう』ということができない」と嘆く。

 現状を打破する一手として、周囲から勧められたのがCFだった。山田教授は「知らない人からお金をもらって研究していいのか」と迷ったが、国立科学博物館が23年、標本保管のためのCFに取り組んだことが後押しになった。目標を大きく上回る約9億2000万円が集まったのを見て、「たくさんの人が科学に興味があるんだと勇気づけられた」と今回の挑戦を決めた。

発掘されたクジラの下顎などの化石=山田桂教授提供

 寄付はCFサイト「READYFOR(レディーフォー)」で7月18日まで受け付ける。目標額は320万円で、機材の購入や化石の発掘、運搬、研究に充てる予定。寄付額に応じ、発掘見学や報告会参加などを返礼として用意する。目標額に到達しなかった場合は返金される。

 発掘は信州大のほか、福井県立恐竜博物館、産業技術総合研究所や秋田大の研究者・学生らが参加し、8月末から行われる予定。化石は信州大や恐竜博物館に運ばれ、クジラの専門家、一島啓人副館長を中心に研究を進める。【鈴木英世】

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