神護寺所蔵の国宝「高雄曼荼羅」のうちの金剛界=岡墨光堂提供

 京都市右京区の神護寺に伝わる国宝「高雄曼荼羅(まんだら)」に使われた紫色の絹織物が、国内で採れた植物、ムラサキの根(紫根)で染められていたことが分かった。ムラサキは安定的な栽培が難しく、曼荼羅が制作された平安時代初期も、紫根染めは希少・高価で高貴な色だったとされる。制作を発願したのは淳和(じゅんな)天皇(786~840年)だったとする文献史料を裏付ける。

 寄託先の京都国立博物館(京都市東山区)が20日、科学分析の結果として発表した。高雄曼荼羅と通称される「紫綾金銀泥絵両界(むらさきあやきんぎんでいえりょうかい)曼荼羅図」は、空海(774~835年)が唐から持ち帰った図を基に制作された現存最古の両界曼荼羅図。密教世界を表す胎蔵界曼荼羅と金剛界曼荼羅の2幅からなり、各幅とも約4メートル四方と大きいことから、同館の大原嘉豊研究員は「スオウとアイなど赤色と青色の染料を重ねて染めたのではないか」と考えていたという。

 だが、2016年7月から21年12月まで同館の文化財保存修理所で行われた、約200年ぶりの本格修理に合わせ、絹地に光を当てて分析したところ、紫根の可能性が浮かび上がった。さらに23年9月、宮内庁正倉院事務所(奈良市)で、劣化によってはがれた約1ミリの繊維片から色素を調べたところ、国内自生の「硬(こう)紫根」と特定したという。中村力也・同事務所保存課長によると、正倉院宝物をのぞき、平安時代の染織品でムラサキと判明したのは初めてという。

 大原研究員は「朝廷が、空海の真言密教を重んじた象徴として染織させ、画工に写させたとみるべきだ」とする。高雄曼荼羅は、6月9日まで奈良国立博物館で展示(金剛界曼荼羅のみ)。7月からは東京国立博物館でも展示される。【南陽子】

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