「ラストシーンの解釈は観客に任せる」と話す濱口竜介監督(酒巻俊介撮影)

昨年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した濱口竜介監督(45)の「悪は存在しない」が、26日から公開される。濱口監督は今回の受賞でカンヌ、ベルリンと3大国際映画祭のグランドスラムを果たしたほか、「ドライブ・マイ・カー」(令和3年)では米アカデミー賞も受賞。黒澤明監督以来の快挙を成し遂げ、いま世界から注目されている。

最新作は自然豊かな長野のとある町が舞台。コロナ禍のあおりを受けた東京の芸能事務所が、政府の補助金で町の水源近くにグランピング場の建設を計画した。地元住民との説明会が紛糾する中、町に暮らす巧(大美賀均)の娘、花(西川玲)が行方不明になる。

映画「悪は存在しない」© 2023 NEOPA / Fictive

「ドライブ・マイ・カー」で音楽を担当した石橋英子(49)から、自身のライブパフォーマンスで使う映像を依頼されたのが製作のきっかけだった。石橋の音楽に合う映像を作ろうと試行錯誤を続けるうちに、ストーリーのある脚本を書き、映画作りと同じように演出することを思い立ったという。

配役もユニークだ。主人公を演じた大美賀はもともと、シナリオハンティングのスタッフとして参加。現場でスタンドイン(撮影前に代役で演じる)をしてもらっているうちに、「何を考えているのかを知りたくなるような顔をしている」とキャスティングがひらめいたという。

作品の舞台が森林に囲まれた場所ということもあり、自然を捉えたカットは、まるで日本画のように芸術的だ。「実際、東山魁夷(日本画家)が描いた湖が近くにあるような場所で撮った。東山が魅せられた風景が映っていると思う」

タイトルは、シナリオハンティングで自然に触れているうちに、「自然に悪を見いだすのは難しい」と思い付いた。「ヒグマは人を襲うこともあるが、ヒグマを悪とは見ないのではないか。悪というのは基本的に人間が他の人間の悪意に対して、そう思う傾向がある。そして時には正しいことだと思って、悪を攻撃することもある」

衝撃的なラストシーンは、ベネチア国際映画祭でも「何を意味しているのか」と話題になった。「その解釈は観客に任せる。そう意図してやっている」という。

「自分自身も映画ファンとして、ある映画と出合って、それが不可解であったり、十分に論理的にかみ砕けないということは、全然悪いことでないと思っている」

さらに、こう続けた。「エンターテインメントを提供しているという認識で作った。観客にとって、いちばん楽しめる映画とは何か。自分にとっては明確に〝解答〟が提示されていない映画であり、観客が自分で考える楽しみがある映画だ」(水沼啓子)

26日から全国順次公開。1時間46分。

はまぐち・りゅうすけ 昭和53年、川崎市生まれ。東京芸大大学院映像研究科修了。「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員大賞)受賞。「ドライブ・マイ・カー」でカンヌ国際映画祭脚本賞受賞、米アカデミー賞国際長編映画賞受賞。

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