二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された9話の医学的解説についてお届けする。

※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。

左冠動脈肺動脈起始症

私が所属する成人心臓血管外科の世界では、すごい珍しい病気が出てきました。これは本当にすごく珍しいです。というのもこの病気はほとんどが赤ちゃんの時に見つかる先天性の病気(生まれつき持っている病気)だからです。

私は小児心臓外科で研修を3年近く行ったのですが、この疾患に出会ったのは1回だけでした。ですので、小児循環器の世界でも珍しい病気です。

病名を分解して説明すると、左の冠動脈が普通は大動脈から出ている(起始している)のに、肺動脈から出てしまっている(起始している)という病気です。

肺動脈には全身から返ってきた静脈血(酸素を含まない血液)が全身→右心房→右心室→肺動脈と流れています。通常心臓の筋肉に血液を送るための冠動脈には大動脈から動脈血(酸素を含んだ血液)が流れていますので、筋肉に酸素が届き、筋肉は元気に動きます。

この病気の場合は、肺動脈から酸素を含まない血液(静脈血)が心臓の筋肉に流れますので、心臓の筋肉は元気に動いてくれません。生まれてからずっとそのような状態が続きますので、心臓の筋肉は成長もしてくれないのです。心臓の動きが悪くなり、未治療であると1歳未満で80%以上が亡くなってしまうというデータもあります。

つまり、この病気を持っている人で佐伯教授のように屈強な体つきの大人に成長することは非常に珍しいのです。心臓の筋肉が発達できないのに、全身の筋肉を鍛えることは非常に困難です。大人になって見つかる方も中にはいるのですが、非常にまれで、心臓の動きは高度に落ちてしまっていますし、運動も辛くてなかなかできません。

虚血性心筋症と僧帽弁閉鎖不全症

このように、心臓の筋肉に十分に酸素がいかない状況になると、心臓の筋肉は弱ってきてしまいます。弱ってきた筋肉はだんだん伸びてきてしまいます。この状況を虚血性心筋症(心臓の筋肉に行く血液が虚しいために心筋が弱くなる病気)と言います。左冠動脈肺動脈起始症でも起こりますし、成人心臓外科領域で多く目にする狭心症や心筋梗塞でも起こります(狭心症や心筋梗塞だと冠動脈の血流が乏しくなりますので、心臓の筋肉にきちんと血液が流れず筋肉は弱くなってしまうのです)。

心臓の筋肉が伸びてくるということは、心臓の各部屋の壁が伸びてくるのと一緒です。部屋がどんどん大きくなってきてしまうのです。すると部屋にある扉の外枠も伸びてしまいますので、扉はきちんと閉まらなくなってしまいます。心臓の左心室は筋肉の壁が厚いですので、影響が大きく、虚血性心筋症になりますと、左心室の壁はどんどん伸びてきて薄くなって、その扉である僧帽弁の外枠も伸びて大きくなって、僧帽弁閉鎖不全症となります。

虚血性心筋症によって起こる僧帽弁閉鎖不全症を虚血性僧帽弁閉鎖不全症と言います。冠動脈の病気と僧帽弁の病気は密接に関わっているのです。

9話では黒崎先生に自宅待機を命じられた渡海先生の「えっ?自宅ここなんですけど」という捨てゼリフが、同じく病院に常にいる自分にはすごく響きました。伏線があらゆるところに張られ、最後にそれらすべてが回収され、同時に佐伯教授の外科医として、そして人間としての強大なパワーが感じられ、そこに渡海先生が挑み最終話につながる。

次回はカエサルによる佐伯教授の手術を解説します。

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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科 
山岸 俊介

冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。

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