ナチス占領下のパリで、マルセル(柚香光、左)とカトリーヌ(星風まどか)は劇場「アルカンシェル」を守ろうとする=東京都千代田区の東京宝塚劇場(石井健撮影)

宝塚花組トップコンビ、柚香光(ゆずか・れい)と星風まどかの退団公演となる「アルカンシェル~パリに架かる虹~」(小池修一郎作・演出)が14日午後、東京宝塚劇場で開幕する。ミュージカルの1本もので、宝塚恒例のショーがないのかと思いきや、物語の舞台はナチス・ドイツ占領下のパリの劇場とあって、豪華なレビュー場面が連続する、期待を裏切らないサヨナラ公演だった。

たゆたえども沈まず

物語は、一言でいうと占領下、レビューの灯を守った演劇人のバックステージ作品。「たゆたえども沈まず」というパリ市の紋章にある標語がキーワードで、どんな困難にも負けないパリの人々のしなやかさと意地とが、華やかなショーとともに描かれる。脚本の小池が、トップ就任期間が新型コロナウイルス禍と重なって公演を制限された柚香と、ナチス占領下のレビュー劇場の天才ダンサーとを重ね合わせた。

柚香が演じるのは、劇場「アルカンシェル」(フランス語で虹の意味)を任された天才的ダンサーのマルセルで、ナチスの圧力に苦しみつつ作品創作を続け、看板歌手カトリーヌ(星風)との恋模様もからみ、パリ解放に至るまでの苦悩と抵抗の日々を描く。劇場一座のメンバーに一体感があり、今の花組の結束感がにじむのがいい。

男役の集大成ここに

座付き作家がスターに合わせて作品を生む宝塚の良さが生き、抜群のスタイルとダンス力を誇る柚香の魅力が満載の舞台だ。ため息が出るようなタキシード姿から始まり、トレンチコートやジャケットなど、男役の美学を見せる。踊りでもモダンダンスのようなソロやジャズ、ラテンまで多様で、飽きさせない。

一方、トップ娘役が宙組時代を含め6年になる星風は、オペレッタの難曲も歌いこなす歌唱力で、プリマの貫禄。当初は反発し合う主役ペアだが戦時下、レビューと劇場を守る同志として、心を通わせるようになる。柚香の生ピアノ演奏に合わせ、星風が美声を披露する場面は、音楽を通じ2人が一つになる名場面となった。

デュエットダンスで見つめ合う柚香光(奥)と星風まどか=東京都千代田区の東京宝塚劇場(石井健撮影)

次期トップコンビも活躍

小池脚本の巧みなところは、ドイツ軍を単純な敵役にはせず、次期花組トップスターの永久輝せあ演じる将校フリードリッヒを、芸術に理解ある人物に造形。永久輝の好演もあって、芝居に厚みを加える。さらに一座の歌姫で、次期トップ娘役に決まった星空美咲とのロマンスも入れ、次期トップコンビの前祝いのように仕上げる。

ただし時代が時代だけに、一座を取り巻く環境は厳しい。ドイツ軍の目をくぐって、禁止されていたジャズ場面を作ったものの、仲間の裏切りに遭い、マルセルらは身柄を拘束される。次々と困難が襲いかかるも、「たゆたえども沈まず」。マルセルら一座のメンバーもレジスタンス活動に身を投じ、やがてパリは無血解放される-。

柚香は、孤高の雰囲気をたたえていた天才ダンサーが、さまざまな困難の中で成長し、一座や祖国のため献身的に行動する姿を自然に演じる。姉御肌のヒロインをのびのび演じる星風を受け止める大きさがある。充実期のトップコンビ退団は宝塚の常だが、惜しいと感じさせる退団作品に恵まれたとも言えよう。

公演は5月26日まで。問い合わせは宝塚歌劇インフォメーションセンター(0570・00・5100)。

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