タンザニアの世界遺産「キリマンジャロ国立公園」は、アフリカ最高峰・標高5895メートルのキリマンジャロを擁する自然遺産です。今年、撮影して放送するのですが、番組「世界遺産」では、1998年、2004年、2012年、そして今年2024年と26年間で四回、この山に登って撮影しています。そして山頂の氷河の変化を、映像で記録してきました。
「あるはずはない」19世紀、誰も信じなかったキリマンジャロの雪と氷河
第一回の登山は、1996年に番組が始まって3年目の1998年。まだ地上波放送がハイビジョンになる前で、画角も4対3の時代でした。このとき撮影隊は、標高5685メートルのギルマンズ・ポイントまで登り、番組として初めてキリマンジャロの氷河の撮影に成功しました。
赤道下の熱帯でありながら、キリマンジャロの頂には氷河があります。高山の万年雪が時と共に分厚い氷の固まりになったものが氷河。19世紀に、ヨーロッパ人として初めてキリマンジャロ山頂の氷河と雪を目撃したのはドイツの宣教師です。彼はその発見を学会で報告したのですが、「赤道下の熱帯にそんな山があるはずはない」と誰も信じなかったといいます。ちなみにこの第一回のキリマンジャロの放送時、ナレーターは初代の緒形直人さんでした。
“第二回”の登山で「アフリカ大陸で一番高いところ」へ到達 キリマンジャロをハイビジョンで記録
第二回の登山は、2004年。撮影隊は「アフリカ大陸で一番高いところ」、キリマンジャロの最高地点・標高5895メートルのウフルピークまで登りました。このとき撮影した山頂の氷河の厚みは約30メートル、ハイビジョンで記録した画角16対9の映像でした。
日本の地上波デジタルハイビジョン放送が始まったのは2003年ですが、番組は他に先駆けて1999年からすでにハイビジョン撮影を始めていました。ちなみに第二回の放送時のナレーターは、2代目の寺尾聰さん。
第三回の登山は2012年で、放送時のナレーターは6代目の深津絵里さんでした。撮影隊は最高地点のウフルピークを登頂。このときの山頂の氷河の厚みは約15メートル。前回から8年経って、なんと半分の厚さにまで減ってしまっていたのです。地球温暖化の影響で、早ければ2022年までにキリマンジャロの氷河は消滅してしまう可能性があるという予測まで出ていました。
厚み約15メートルの氷河は約7メートルに減少 12年ぶりにキリマンジャロを撮影
そして第四回の登山を行った今年、2024年。果たして、山頂の氷河は残っているのか。撮影隊は標高5756メートルのステラ・ポイントまで登り、ここを起点に山頂の氷河の撮影を行いました。2012年の前回撮影から12年…氷河は驚くほど小さくなってしまい、厚みも約7メートルにまで減っていましたが、まだ残っていました。
雪も残っていたため、映像だとちょっと分かりづらいのですが、雪の中に氷河の氷の壁が立っている所をしっかりと撮影することができました。温暖化の進行が遅くなったのかは判然としませんが、キリマンジャロの氷河の消滅時期は2050年頃という、延長した予測も出ています。この第四回のキリマンジャロ撮影の様子は、9代目の鈴木亮平さんのナレーションで放送する予定です。
2004年・約30メートル→2012年・約15メートル→2024年・約7メートル。キリマンジャロの氷河の変化を、番組は記録し続けてきました。手前味噌ではありますが、きわめて貴重な映像だと思います。その映像もハイビジョン以前のSD撮影からハイビジョン撮影、そして今年は超高精細の4K撮影へと進化してきました。それは放送スタート時から「最高の映像で世界遺産を記録し、後世に残す」というのが番組コンセプトだったからです。
次回、番組がキリマンジャロに登るのは何年後になるのかまだ分かりませんが、さらに高精細の8Kで撮影を行うことになるでしょう。そのとき、果たしてキリマンジャロの氷河は消えずに残っているのでしょうか。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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