放送中のドラマ『アンチヒーロー』。至るところに伏線が張り巡らされた本作を、頭を捻りながら伏線を探す視聴者の癒やしとなっているのが、長谷川博己演じる主人公・明墨正樹の法律事務所で飼われている犬・ミルだ。

作中で時折登場し、自然でかわいさあふれる見事な演技を見せているミルを演じるのは、4歳のゴールデンレトリーバー・ライズ。ドラマの出演に向けて相当な訓練をつんできたのかと思いきや、ドッグトレーナー・細波麻裕美氏(アニマルプロ株式会社)は、「どんなご家庭の愛犬でもできる」と語る。

ここでは、ドラマ撮影で活躍する動物プロダクションのドッグトレーナーという仕事の裏側について細波氏に語ってもらった。

ドラマ業界に携わるきっかけは自身のペットから!

細波氏がTBSの作品に携わるのは今回で4作品目。川口春奈主演の『着飾る恋には理由があって』に、自身が飼っていたボーダーコリー・葉菜(リーナ)が出演したのが始まりだった。「葉菜の前にもボーダーコリーを飼っていて、その犬がたまたま声を掛けてもらって、芸能のお仕事をしていたんです。その頃は私もドッグトレーナーの専門学校で働いていたのですが、そこを辞めてこの世界に入りました」と、業界入りのきっかけを振り返る。

『着飾る恋~』への出演は細波氏にとっても転機となり、その後継続的にドラマに携わることになったという。「当時は会社もまだ若くて、創立2年目くらいの頃にたまたまお話をいただきました。そこからライズにまでお仕事がつながっていることはすごく感慨深いです」。

自身の仕事を珍しくて目立たない立場だと口にする細波氏。「1作目に出演させていただいた当時は、ドラマに犬たちがレギュラーで出させてもらえるなんて珍しいなと思っていたのですが、最近は増えていますよね。でも、動物がドラマの撮影に参加することで現場では予測不可能な要素が増えるので、すごく勇気が必要なことだろうなと。なので、それに応えなきゃいけないというプレッシャーも感じています」と吐露した。

専門学校を辞めてまでこの業界に足を踏み入れた細波氏だが、何がきっかけだったのだろうか。「もともと愛犬が出演したことがきっかけだったこともあって、『夢を与えられるお仕事でいいな! もっといろいろ関わってみたいな』って思ったんです。動物プロダクションという芸能の中でも特殊な業種ではありますが、自分が好きな動物と一緒に仕事できるのがすごく貴重だと思って」と、職業との出合いを明かした。

ミルが映像に映ると、SNSでは「見つけた!」「癒やされる」という報告や感想が多数上がる。画面越しに伝わる動物の力について細波氏は、「動物を飼いたくても飼えない人にも楽しんでいただけていますし、昔飼っていたワンちゃんや猫ちゃんを思い出したというポジティブな感想をいただくこともあります。そうやって少しでも視聴者の皆さんに癒やしを届けられた瞬間は、やはり続けていてよかったなと思いますね。特に『アンチヒーロー』は作品柄、ミルが映るシーンは和む要素になっていると思います」。

どんな犬でも出演できる?俳優犬に必要な要素

ドラマや映画に出演する動物を観て、いつかは我がペットも!とうっすら希望を抱きながら、「いや、ウチのペットに演技なんてとてもとても…」と諦めてはいないだろうか?きっと特別な才能があるうえに訓練をされているはず…と思いきや、細波氏から驚きの事実が語られた。「ライズも所属している動物も、みんな一般のご家庭で育てられている普通のペットなんです。別にみんな特別な訓練を受けているわけではないので、そこは皆さんに知ってもらいたいですね」。

細波氏曰く、一番大切なのは小さい時から正しい知識をもって育てていくこと。「よく『ウチのコはできないわ~』って言われるんですけど、たぶんできるんです(笑)。時々もともとの性格上、出演は難しいかもと思うケースもありますが、基本的には育て方次第。飼い主さんがペットとどれだけ向き合って、いろいろなことを教えてきたかが大事になってきます」と、改めてペットと向き合う大切さを教えてくれた。

ライズは、細波氏の愛犬というわけではなく、飼い主さんがいるという。「ライズとは一緒に住んでるわけではないですし、普段は全く会っていません。撮影がある日にしか会っていなくても、ちゃんと指示を聞いてくれるんですよ。『どういうふうに訓練したらいいんですか?』と聞いてくださる方もいるのですが、私たちは特別な訓練はしていないんです。一般の飼い主さんが大切に育ててくださっているからこそ。ドッグトレーナーじゃないとできないわけではないんですよ」と微笑んだ。

実際に、この日ライズが撮影していた“吠える”シーンは、本番の5日前くらいに監督から相談があり、本番の朝に少しだけ練習。見事に本番までにハンドサイン(音や声を使わずに指示を出す技法)を覚え、完璧な演技を見せた。さらには休憩中、長谷川のハンドサインでもしっかり吠えていたという。

細波氏が働く事務所ではドラマの撮影があることを想定し、業界としては珍しくオーディションをするようにしている。「怖がりな性格の動物にとっては、こういう現場での撮影があるお仕事はかわいそうなので、オーディションで見極めるようにしています」と明かしてくれた。

「(犬が)途中で嫌になっちゃったりしないんですか?って聞かれますが、様子を観察しながらしっかりケアをしています」。一番は犬が楽しんでできることだと語る細波氏。そんな細波氏のおかげでライズも撮影現場を楽しんでいるようで、「撮影が始まった頃は、ずっと控室にずっといるのが普通だったのですが、最近はライズの方から甘えたクーンという鳴き声で「早く行こうよ!」って訴えてきて、皆さんが集まっている前室(スタジオ前の待機場所)に行きたがるんです」と控室での様子も披露してくれた。

取材が終わりスタジオに向かう細波氏を見送っていると、ライズを見つけ笑顔で微笑むスタッフたち。そんな1人ひとりを見上げてアイコンタクトを取るライズは、愛ある眼差しを一身に浴びながら、僕の出番だと言わんばかりにしっぽをぶんぶんと大きく振って、次の撮影に向かっていった。主要なキャストとして相関図にも載っているミルだが、果たして物語とどうつながっていくのだろうか…。

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