約8年ぶりの完全新作となる『サガ エメラルド ビヨンド』の魅力とは?(画像は任天堂公式サイトより)

『サガ エメラルド ビヨンド』が2024年4月25日に発売された。本作は、35年の歴史を持つ「サガ」シリーズ最新作となるRPGで、約8年ぶりの完全新作だ。

もともと「サガ」シリーズはクセの強い作品だが、今回もなかなかのものである。はっきりいっておすすめはできないが、ハマれば熱中してしまうという不思議なRPGといえる。

RPGといえば一昔前の国民的ゲームジャンルなのに、なぜ『サガ エメラルド ビヨンド』はそんなゲームになっているのだろうか?

独特な考え方が重要になる「バトル」

『サガ エメラルド ビヨンド』はコマンド選択式のRPGである。ロボットの歌姫、吸血鬼、魔女など個性的な主人公のうちひとりを選び、17の世界を旅するのが基本的な流れとなる。

これだけ聞くとふつうのRPGに思えるが、ポイントはバトルである。バトルではただ技・術を選択するだけでなく、その選択によって敵味方の行動順が変化(画面下部のタイムライン上で表現される)。そして、連続で行動すると「連携」が発動して大ダメージを出せるのだ。

バトルでは、画面下部のタイムラインが非常に重要。仲間と一緒に行動すると「連携」が発動する(画像は任天堂公式サイトより)

また、タイムライン上で周囲に誰もいないときは、ひとりで行う連携「独壇場」を発動できる。このように、ただ強い技を選ぶだけでなく、あえて弱い技を使う、場所の入れ替えをする・しないといった独特の考え方が重要になってくる。

このバトルが魅力にあふれている一方で、それ以外はあまり手がかかっていない。キャラクターは使いまわしが目立ち、ボス級モンスターですらしばしば色違いが登場するファミコンのような状況だ。

フィールドも書き割りのざっくりとしたグラフィックがメインだし、ストーリーそのものは悪くないもののかなり大雑把である。「サガ」シリーズをあまり知らない人からするとクソゲーに見えてもおかしくない。

ざっくりしたストーリーには私も驚いた。ロボットの歌姫編では「悪いやつを倒したあと歌姫が歌って終わった」という唐突すぎる展開で、余韻はおろかまともな展開すらまったくなかったからだ(ただし、やり込むとストーリーの補足は見られるようだ)。

にもかかわらず、なぜ『サガ エメラルド ビヨンド』を面白いといえるのか? それは、本作が「バトルによってプレーヤーごとの物語が描かれるRPG」だからである。

ラスボスを倒すのに大苦戦

筆者ははじめにロボットの歌姫を主人公に選んだのだが、そのラスボスは非常に強く何度も挑戦する必要があり、倒すのにおよそ5時間もかかった。

挑戦するもあっさりやられてしまうため、近くにいるほかの雑魚敵を倒して仲間を鍛え、装備を改善する。また挑戦してやられたとしても、敵が使うこの技はどんな効果があるのか、どう防げるのかを下調べする。これを繰り返し、かなり時間がかかってようやく撃破したのだ。

さらに、ラスボスを撃破したときの状況もドラマティックだった。

最後は主人公であるロボットの歌姫以外すべての味方がやられた状況になり、歌姫も残りHPがごくわずかであった。もはや絶体絶命であり、やり直しが頭をよぎる。

しかし、味方がやられているため歌姫のひとり連携が発動。彼女は最後の力を振り絞りながら戦い、雪が舞い、花が散り乱れる「乱れ雪月花」という美しい技でラスボスを撃破した。

苦労の果てに、しかも最後の最後に主人公が見事な技で最後の敵を倒すとは、いくらなんでも出来すぎではないかと思えるほどの展開であった。

その後は前述のように、歌姫が唐突に歌って物語が終わりを迎えた。だが、このバトルの展開こそがドラマティックで美しい「私だけの物語」になったといえる。

偶発性によってバトル内容が変化

本作には、連携や独壇場のほかに、バトル中に新たな技を覚える「閃き」といった偶発性によってバトル内容が変化する要素が盛り込まれている。

シリーズおなじみの「閃き」。技を覚えるアクションなのだが、いつ発生するかランダム性があり、意外な展開を生んでくれる(画像は任天堂公式サイトより)

この偶発性により、誰がどんな状況でどのような技で戦うのかはつねに変化する。つまり、「出来すぎに見える偶発的な展開」をプレーヤーが体験できるよう、意図的に作り出しているのが『サガ エメラルド ビヨンド』のスゴいところなのである。

いわば、ゲーム内で用意された物語よりも、バトルを通じてそれぞれのプレーヤーが見た物語(展開)に感動するようなゲームといえる。

ただし、そんな大きな魅力があっても『サガ エメラルド ビヨンド』は簡単にはおすすめできない。

前述のように、本作はバトルが中心でそれも特殊なものなのだが、それ以外はかなりざっくりとしているのだ。ゲームがある程度進むと、アイテムを交換できる「トレード」システムが出てくるのだが、これがとにかく面倒である。

バトル1回ごとにメニュー階層の奥深くからトレードを呼び出し、何度も何度もアイテムのチェックをする必要があるのだ。別にトレードをサボってもいいのだが、それはのちのち困る可能性が出てくる。

改善してほしいところは山のようにあるが…

ストーリースキップ機能も最低限といったところで、同じ主人公で何周もするゲームなのにこれはやる気をなくす。このゲームが好きだとしても、改善してほしいところは山のようにあるのだ。

緑色の光に導かれ、17の世界を巡るのが本作の基本的な流れ。同じ世界に2度3度行くことになるが、そのたびに展開が変化する(画像は任天堂公式サイトより)

とはいえ、それでも「バトルによってプレーヤーごとの物語が描かれるRPG」という魅力は非常に大きい。偶発性によってドラマティックな、かつプレーヤーそれぞれの独自体験が生まれる稀有なゲームなのである。おすすめはしないが、我こそはと思う人は遊ぶべき作品だろう。

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