かつての「エース」製品は、復活を遂げるのか。精密部品大手のミネベアミツミが、車載用バックライト事業の拡大を進めている。直近の部門売上高は約250億円程度だが、これを2028年度に1000億円(スマートフォン用などを含む)を目指す。
「高級車用途で、7年累計で1000億円のプロジェクトを受注しました」。ミネベアミツミの貝沼由久会長兼CEOは昨年8月、決算説明会で懸案だったバックライトについて力強く語った。2025年モデルから採用が始まり「ほかの高級車でも受注できると思う。バックライトの生産が増えていくと、工場をさらに建設する必要がある」とも述べた。
2023年3月期のグループ売上高1兆2922億円、営業利益1015億円の中でバックライト事業の存在感はいま一つながら、「ニッチ分野で多角化経営」を掲げる同社にとって、今回の構造転換は重要な意味を持つ。
有機ELの台頭で急失速
2017年1月にミネベアとミツミ電機が経営統合する直前まで、旧ミネベアの成長柱はスマートフォン向けLEDバックライトだった。2017年3月期の売上高6389億円のうち、バックライトは約2000億円を占めていた。
バックライトは液晶を照らす部品で、ミネベアミツミは世界最薄クラスの技術力を保有する。最盛期はスマートフォンの上位機種向けで世界シェア約8割を握っていた。“我が世の春”を謳歌する中、曲がり角は突然訪れる。最大の取引先である北米メーカーが、新モデルのディスプレーに有機ELを搭載する方針を固めたのだ。
自発光の有機ELにバックライトは不要。同事業の黎明期から関わってきたモーター・ライティング&センシング事業の志村宇洋本部長は「何か対策を打たなければ、事業がなくなる可能性もあった」と振り返る。
ミネベアミツミのモーター・ライティング&センシング事業・志村宇洋本部長(記者撮影)バックライトはスマホのディスプレー裏側に配置し、LED基板から発した光を各種フィルムに通過させ、液晶を均一に照らす仕組み。当時の技術では、光源部分は画面の表示面積を削らねばならず、全域をディスプレーとして活用できる有機ELに劣っていた。
同社は、液晶パネルやLEDの国内メーカーなどとコンソーシアムを結成。共同研究で小型化を進め、上記の課題を克服した。北米メーカーは2017年発売のモデルで有機ELを採用したものの、翌年以降はしばらく機種のグレード別で液晶と併用していた。
だが、2020年からは基本的に有機ELで統一。現在は廉価版と旧型でのみ液晶を使用している。ミネベアミツミのスマホ向けバックライト事業の売上高は、全盛期の10分の1程度まで落ち込んでしまった。
車載用途で引き合い増加
このまま、かつての稼ぎ頭は消滅してしまうのか――。そこに待ったをかけたのが、車載向けの新たな需要だった。EV(電気自動車)の普及や車内電装の増加に伴い、計器類やルームミラーなどに液晶ディスプレーの採用が広がり、バックライトの引き合いが強くなってきたのだ。
実は車載向けバックライトには、2007年から参入していた。しかしスマホ向けの生産や開発の対応に追われて、十分に力を割けずにいた。スマホ向け需要が頭打ちとなってから強化を試みたものの、新型コロナウイルス禍に直面。新車生産台数がサプライチェーンの混乱や半導体不足で減少する中、同社事業も伸び悩んだ。
「コロナ禍の苦しい時期をしのげたのは、諦めずにスマホ向けを延命したから」(志村氏)。近年は、欧米の高級車向けに部品を納めるティア1からの受注が増えている。各社は豪華で高付加価値な車載モジュールを競い合うように開発しており、結果としてナビの画面が大きくなったり、ディスプレーの数が増えたりしている。
左がスマートフォン用バックライト、右が車載用バックライト(提供:ミネベアミツミ)問われる真価
同社にとってLEDバックライトは、1990年代後半から育ててきた事業だ。当初は画面を前から照らすフロントライトに注力したが普及に伸び悩み、2001年頃にバックライトへ参入。国内メーカーでは最後発だったが、海外生産を業界でいち早く始めて台頭し、高性能なバックライトを必要とするスマホの登場で飛躍した。
需要の増加が見込まれるEV向けのバックライトでは、明るさと耐久性を要求される一方、バッテリーで動くため電力消費を極力抑える必要がある。中国や台湾、韓国の競合メーカーとの競争では、スマホ向けで培った小型化の技術を生かしてコストと品質の両面で差別化を目指す。
一度は危機に瀕したバックライト事業だが、売却・分離でなく延命・復活の道を選んだ。それが正しかったのか、車載という新分野で真価が問われている。
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