特集は長野市の市街地に店を構えて111年目を迎えた理髪店です。場所柄、歴代の知事も通ったという店。長く地域を見つめてきた、店の歴史と一日を取材しました。
■100年以上続く理髪店
長野市の理髪店「大盛軒」。
大盛軒4代目・小林亘さん(接客):
「本当に過ごしやすい時期が短くなってきましたよね」
4代目の小林亘さん(47)。
母親の千恵子さんと2人で店を営んでいます。
4代目・小林亘さん:
「毎日毎日、お見えになる方を、笑顔で帰ってもらえればと思って仕事してます」
店があるのは県町通り。
一本西の県庁通りは、県庁を始め議員会館や裁判所などが建ち並ぶいわば「官庁街」です。
店は地域を見つめて100年以上になります。
■「西洋カミソリ」を長野で初導入
創業は大正2年・1913年。
現在はホテルとなっている犀北館の敷地を借りて曾祖父の勇三郎さんが開業しました。
横浜で修業した勇三郎さんは「西洋カミソリ」を初めて長野で使った人だといわれています。
宿泊客の他、場所柄、県庁の職員や県会議員に利用されることが多く、店名も客だった県職員がつけたと伝わっています。
■歴代の知事も常連客
2023年引退した3代目の成亘さん。歴代の知事も常連だったと教えてくれました。
3代目 父・成亘さん:
「知事官舎がそこにあって、物部さんという知事が真っ先に官選知事で来て、その人から。(思い出に残っている人は?)それは西沢さんさ」
■知事の頭はたけるのはここだけ
成亘さんが懐かしむのは、1959年から6期21年務めた西沢権一郎知事。
2代目の時代から通い後半は成亘さん、千恵子さんの3代目夫婦が担当しました。
母・千恵子さん:
「最後の仕上げのマッサージをさせてもらってるときに『若奥さんや、もっと強くはたいていいぞ』と。『もっと元気にはたいていいぞ』って、そばにいたおじいちゃん(2代目)が『知事さんの頭はたけるのここだけだ』って」
3代目・父・成亘さん:
「そこ(知事公舎)から来て、みんな代々かわいがってくれたもの、感謝感謝だ」
知事公舎は田中康夫知事の時代から使われなくなり、2004年に小川村に移築されました。
■街並みも変わって人通り少なく
店のある県町通りも大きく変わりました。
かつては多くの商店が軒を連ねていましたが長野オリンピックが終わってから景気低迷もあって店が減り、人通りも少なくなりました。
3代目成亘さん:
「いわゆる県町商店街と言って60何軒あったんだ。(商店街で)洋服をあつらえて、頭を大盛軒でやって、泊まるのは犀北館、これがステータスというか。今はみんななくなっちゃった。もうちょっと頑張ってもらいたいけど商売というのは難しいね」
■店では50年以上前の椅子も現役
1983年、ホテルの増改築に伴い、店は30メートルほど北側に移転し、現在に至っています。
創業当時からあるドイツ製の掛け時計や成亘さんが店を継ぐ際、新調したという50年以上前の椅子もまだ現役。
そして、店の雰囲気も昔とさほど変わっていません。
■現在は4代目が継ぐ
この日も多くの常連客が足を運んでいました。
4代目・小林亘さん(接客):
「志賀のほうが積雪って言ってましたね」
4代目の亘さんは8年間、東京で修業し2005年に店を継ぎました。
4代目・小林亘さん:
「長男で生まれたのもありますし、祖父母もこの仕事、曾祖父もしてましたから、跡を継ぐというのは必然だと思っていたので。(父親が)幅広い層の人に慕われている姿は見ているので、地元にいる上では、そういう方々がニコニコして来ている姿を見ていると自分もそういうふうになりたいなと」
23年来の常連(83):
「息子さんもなかなか上手ですよ、お父さんも上手でしたけどね。ここのお父さんも話好きでなかなか物知りでしたから楽しみで、頭をやってもらうより話のほうが楽しみで来てましたから。今も息子さんによく話し相手になっていただいてます」
■若い世代にも評判
顔剃りに、耳かき。丁寧な仕事は若い世代にも評判です。
こちらの大学生はもう4年通っています。
4年通う大学生(21):
「来てみたらサービスもすごくいいですし、腕も良いし、話も面白いので通うようになった。ここは切るだけじゃなくてカミソリとか耳かきとか、すごく温かくて、月イチのごぼうびみたいな場所だと思ってます」
111年目を迎えた大盛軒。店を守る4代目を3代目夫婦はー。
3代目・父・成亘さん:
「本当に感謝、感謝だよ。だってこの辺だってみんな店なくなっちゃったりさ、跡継いでくれた息子に感謝してるっきりだ」
母・千恵子さん:
「そうじゃなきゃ110年、111年続いていない、われわれで終わっちゃえばあれだけど。ありがとうございました、息子、お客さんに感謝です」
一方、4代目の亘さんはー。
大盛軒・4代目・小林亘さん:
「まだ自分の店だとは確信をもってやってないかもしれないですね、親の築いた店なので。少しずつですかね、お客さんの年代や層も少しずつ変わってきていて、自分が関わるお客さんが増えてきてというちょっとずつの意識変化だと思うので、まだと思っています。毎日毎日の積み重ねだと思うので、これからも変わらず仕事はしていこうかなと思いますね」
すっかり暗くなった県町通り。
でも大盛軒は、客足が途絶えず、この日も夜まで明かりが灯っていました。
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