財布の中に1円玉はありますか。キャッシュレス化が進んだ今、細かいお金が財布の中にない、あるいは、財布すら持ち歩いていないという人もいるかと思います。実は、ここ2年で製造された1円・5円・50円は普段使いのために製造されたものではなく、1円に至っては全盛期の約5000分の1の製造枚数にとどまっています。どこに行ってしまったのでしょうか。
実質的に新規の製造がとまっている? 収集向けのみの1円・5円・50円
思い返してみると、キャッシュレス決済が使えない自動販売機で10円と100円は使うことがありますが、それ以外の貨幣を使う機会はなかなかありません。寺社の賽銭で「ご縁」を求めて5円を入れようとしても、10円しか見つからないことがよくあります。
キャッシュレス派にとっては、財布に入っていると使い道に困る1円と5円(そして50円)は今、実質的に新規の製造がありません。
貨幣の製造を行う造幣局に話を聞くと、たしかに、1円は平成23~25年と平成28年~令和5年、5円と50円は平成22~25年と令和4〜5年の各期間(いずれも平成に入って以降)、コレクション向けの「貨幣セット」に組み込まれたものしか製造されていません。
一般にはなじみがありませんが、その年に製造された貨幣を詰め合わせた「貨幣セット」には2種類が存在します。模様を鮮明に浮き出させた「プルーフ貨幣」のセットと、「通常貨幣」のセットです。セットの狙いについて、造幣局の担当者は「貨幣に対する国民の信頼を維持し、通貨制度の安定に寄与するために製造・販売しているもの」と話します。
いずれにせよ、日常使いを見込んでの1円・5円・50円の製造はされていないようです。
ピークは平成2年、1円は27億枚超を製造 今や全盛期の「数千分の1」に
いったん1円に特化して見ていくと、製造枚数が最多だったのは、平成2年で、1年間で27億枚超が製造されました。一方、令和に入ってからの5年間の製造枚数はそれぞれ46〜84万枚と、全盛期の数千分の1しか製造されていません。
製造枚数はどう決めるのか。決めているのは造幣局ではありません。財務大臣が定めた「貨幣製造計画」に基づいて、造幣局は製造しています。財務省の担当者は「市中における貨幣の流通動向などを踏まえ決定しています」と話します。
4月に発表された最新(令和6年度)の製造計画でも、1円・5円・50円の製造枚数は100万枚にとどまっています。
キャッシュレス化が関係しているような気がしますが、この場合、製造というよりも流通の枚数に目を向ける必要があります。
実は、製造枚数は減っていても、流通枚数が大きく減っているわけではありません。日本銀行の統計「通貨流通⾼」によると、むしろ、100円と500円に関しては流通枚数が増えています。その一方で、1円・5円・10円・50円の流通枚数は2000年代がピーク。その後は減少傾向です。
キャッシュレス化の進行と製造枚数の減少に関係はあるのかという問いに、財務省の担当者は「(貨幣上にはやりとりの記録が残らない)貨幣の匿名性などの観点から、関係性を断定することは難しいです」とする一方で、流通枚数も考慮して製造枚数は決めているといいます。
今後また製造が増えることも?流通増で製造増 最後に少しだけ豆知識も
実際に、流通枚数が増えれば、製造枚数も増えるという一例があります。
前述のように、1円は平成23〜25年と平成28年〜令和5年は貨幣セットのみの製造でしたが、平成26〜27年に大幅に製造枚数が増えていたことがありました。
財務省によると、これは平成25年度に1円の流通枚数が増加したこと、さらに、平成26年4月に消費税が8%になったことを考慮したためだといいます。
ここまで発行枚数が少ないと、その価値も気になります。「日本貨幣商協同組合」の林和美さんによると、貨幣の価値は「その状態と流通枚数で決まる」といいます。ただ、ほんの少しの傷がつくだけでも価値はガクンと落ちるため、扱いには細心の注意が必要です。
豆知識を続けます。キャッシュレス化が進む前はよく話題になっていた「一度に同じ貨幣を何枚まで使えるか」については、「20枚」が限度です。通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第7条に「額面価格の20倍まで」と定められています。
最後に、財務省の製造計画に気になる文言が。「千円」というものです。1000円は日本銀行が国立印刷局に発注している紙幣だけかと思っていましたが、これは何なのでしょうか。(ちなみに、日本では貨幣は硬貨のことを指し、日本銀行券の紙幣とは区別されています)
財務省の担当者は「この千円は、いわゆる『記念貨幣』と呼ばれるもので、国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する硬貨です」と教えてくれました。
目にする機会の減った少額貨幣ですが、手に入れることがあったら邪魔だと思わずに、いつ製造されたものなのかチェックしていきたいと思います。
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取材:TBSテレビ デジタル編集部・影山遼
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