記事のポイント
・国民民主党がキャスティングボートを握り、「石破降ろし」が生じにくい流れは想定内
・「103万円の壁」は満額回答とはならない可能性が高い
・「103万円の壁」以外の政策が停滞している可能性が高い
・半導体支援に「つなぎ国債」を使うという流れは、財源の限界が意識される
国民民主党がキャスティングボートを握り、「石破降ろし」が生じにくい流れは想定内
10月27日の衆院選で与党が過半数割れとなったことで、国民民主党がキャスティングボートを握る格好となっている。11月11日に予定される首相指名選挙では決選投票を経て石破首相が改めて首相に選出される公算が大きいが、自民党・公明党は少数与党として国民民主党を中心に野党の協力を得ながら政策を進めていく必要がある。他方、現状では、自民党内からは「石破降ろし」の動きは表面化していない。高市前経済安全保障相は11月5日夜に衆院選の慰労会の名目で会食を実施し、9月の総裁選で高市氏を支えた陣営の議員を中心に20人ほどが集まったようであり、報道によると今は自民党が大変な時なので党の結束が重要だといった意見が相次いだという。すぐに「石破降ろし」の動きが本格化することはなさそうである。他にも、来年度予算の通過までは石破氏の続投を望む議員のコメントも報じられていた。
「103万円の壁」に議論が集中しているが、満額回答とはならない可能性が高い
「103万円の壁」の引き上げの議論に注目が集まり、国民民主党に対する期待値が非常に高まっている。現実的にはすでに11月に入っている段階でこれから補正予算(経済対策)を策定し、税制を調整し、財源も含めて25年度本予算にも影響を盛り込むことは容易ではないと考えられ、落としどころが注目される。
各種報道によると、「103万円の壁」を見直す方向で調整に入る模様だが、国と地方で約7兆~8兆円とされる税収減を抑える協議が与党と国民民主党の間で行われる可能性が高いようである。今後の展開を予想すると、補正予算(経済対策)では24年6月に実施したような定額減税が実施され、「壁」の対応については今後の課題として議論を継続していくというのが落としどころになると、筆者は予想している。
冷静に考えると、国民民主党がキャスティングボートを握り続けることは容易ではない。現在は自民党・公明党(与党)にボールがあるために国民民主党が「攻めている」状況だが、与党が回答を示せば、ボールは国民民主党に移る。与党の回答が不十分となれば、国民民主党は不満を示すことになると予想され、国民民主党が「負ける」という可能性は低い。しかし、実際に予算や法案に賛成しない意向を示せば、国民民主党のせいで政策が停滞しているという構図になるリスクもあるため、国民民主党も落としどころを見つけざるを得ない面もある。さらに、与党が日本維新の会など他の野党勢力の協力を得るという選択肢もあることを勘案すると、容易に流れは変わり得るだろう。
「年収の壁」の問題は岸田政権でも議論され、23年10月には2年間の時限措置で「106万円の壁」(厚生年金・健康保険へ加入する基準)や「130万円の壁」(国民年金・国民健康保険へ加入する基準)を軽減するための支援をしている。従来から更なる制度の見直しも視野に入っており、今回の国民民主党の主張によって加速はするかもしれないが、大きな変化にはならないだろう。
「103万円の壁」以外の政策が停滞している可能性が高い
世の中が「103万円の壁」の議論に集中する中、筆者は他の2つの報道に注目した。
1つ目は、赤沢経済財政相が11月5日に行われた閣議後の会見で、10月末で打ち切られた電力・ガス料金補助金を再開する場合、実施には事務的に1ヵ月以上は必要であると述べたというもの。仮に12月以降に再開する場合、事後的に11月分を補てん・支援する可能性については否定したという。電気代・ガス代の補助策は補正予算(経済対策)に盛り込まれる可能性が高いとみられていた。その間は予備費の活用によって継続される可能性があると、筆者はみていたが、現状では議論が進んでいない模様である。前述したように、「103万円の壁」の議論の中で所得減税といった議論が出てくる可能性はあるが、「103万円の壁」に議論が集中し過ぎて他の政策の議論が進んでいない印象が強い。石破氏は衆院選前にこれから策定される補正予算(経済対策)は13兆円規模となった昨年の経済対策を超える規模にする意向を示したが、この数字に向けて積み上げが行われていないとすれば、少なくとも即効性という意味では経済対策が期待外れに終わってしまう可能性は十分にあるだろう。
半導体支援に「つなぎ国債」を使うという流れは、財源の限界が意識される
2つ目の注目は、政府が半導体支援について「つなぎ国債」を発行するというもの。半導体支援についてはこれまでも経済対策に盛り込まれてきたが、新たな枠組みをつくり、財政運営上、一般会計とは分けるという動きがあるという。一見すると半導体支援に前向きな報道だが、「つなぎ国債」は特定の財源とセットであり、実際に「つなぎ国債」の償還財源にはNTT株やJT株など国が保有する株式からの配当金をあてると報じられている。これまで一般会計の中で積み上げられ、建設国債や赤字国債を財源としてきたが、財源が限定されることで歳出にも制限がかかることになるだろう。経済安全保障にかかわる半導体支援についても限度があると財務省からキャップが付けられたと考えられ、経済対策が拡大しにくくなる要因と考えられる。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)
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