京都の東の郊外。旅館の元若女将が、憧れの「京町家」をイメージした土間を作り、全面リノベーションした築100年の家がある。
住人（アルジ）は、夫妻と幼い子どもの３人家族。夫は京都の旅館に勤務し、妻も出産前までは旅館で若女将をしていた。そんな一家の住まいは、築100年の古家。外観は変えず、室内をリノベーションしている。
家に入ると、古めかしい外観とは打って変わってモダンな雰囲気。さらに入ると、家の奥まで続く長い土間が伸びている。その長さ、なんと9メートル！ 妻は、京町家特有の、「通り庭」と呼ばれる玄関から裏庭までをつなぐ土間に憧れを持っていて、キッチン、ダイニング、さらにはその奥のパントリーまで続く土間を設けたのだ。通り庭を現代風にアレンジしたこの土間は、なんと１階の全床面積の４割近くを占めている。この土間のおかげで、生活が、とにかく便利になったという。
100年続く京都の旅館に生まれ若女将をしていた妻は、旅館関係者が集まる会で知り合った夫と2015年に結婚。京都市内の賃貸マンションで新婚生活を送っていたが、京町家の暮らしに憧れがあり家を探すことにした。だが近年、京都中心部の京町家の価格は、投資家や海外富裕層の買い占めにより高騰していて、高いところだと軽く「億超え」。とても予算3500万円では手が届かなかった。そんなときに出会ったのが、京都の中心部から見て東の郊外にあたる山科で見つけた、リノベーションが前提の築100年の古家。山科は京都中心部へのアクセスがよく、自然も豊か。しかも物件の価格は京都中心部よりぐっと安く、物件は破格の2800万円だった。ところが……リノベーション費用の見積もりはなんと2000万円！ 本体価格と合わせると1300万円も予算オーバーしてしまうことが判明！ だが「それでも諦めきれなかった」という妻。そこで"いかにコストダウンしつつも自分たちの理想を叶えるか"、夫妻で知恵を絞ることになった。
まず、９メートルもある土間は、床をフローリングではなく土間にすることで、そもそも約45万円の工事費削減になっていた。さらにこの土間には、光沢が出て表面をきれいに保てる「クリア塗装」を自らの手で施し、これで約８万円のコストカットになったという。クリア塗装には、掃除しやすく、シミや汚れを防ぐという大きなメリットもあった。さらに、家の内壁はほとんどを自分たちで塗り、約50万円も費用を抑えたのだ。
キッチンカウンターはＬ字型で、妻お気に入りのスペースだ。来客時はカフェのようにカウンターでコーヒーを振る舞っている。カウンター下は客側から見えない収納に。ゴミ箱も隠せるようになっている。キッチンは土間と同じく、セメントに水や砂を混ぜたモルタルで仕上げており、手入れも簡単だ。
キッチンの奥はパントリー。生活感を極力消すため、冷蔵庫はパントリー内に配置。棚板は妻が1人でDIYして取り付けた。これも7万円のコストカットに。玄関からパントリーまで土間がひと続きなので、段差もなく、買い物から帰ってきても、重い荷物もスムーズに運ぶことができる。
ダイニングテーブルは、半分が土間、半分がリビングにかかっている、独特の配置に。土間側は椅子を使用し、リビング側は座卓として使えるよう床から35センチの高さになっている。食事のときは子どもを土間側に座らせることで、食べ物をこぼしても掃除が簡単に済むという。
玄関裏にはクローゼットスペースを設けた。建具や引き出しはなく、収納の役割を担うのはアイアンポール1本。これで建築コストを約15万円カットできた。ポールにしたことで、洗濯物をそのままハンガーごとかけられるというメリットも。部屋の壁や扉は全て取り払い、仕切りとして布を使用。布をカーテンクリップで留めただけの超簡単DIYで、約25万円のコストカットに成功した。
自然豊かな、京都の郊外に作った「京町家」での暮らし。妻は「街なかで暮らしていたときにはあまり感じなかった四季を肌で感じることができるので、本当に気に入ってます」と満足する。一方、夫も「子どもが将来海外に出たときに日本の文化を伝えられるようになってくれたら、住んでいる意味があると思っています」と語る。
理想を諦めず自らの手で夢を叶えた住人（アルジ）一家。数々の工夫が詰まった家の"通り庭"には、きょうも京町家を思わせる風が吹き抜けてゆく。（MBS「住人十色」2024年４月27日放送より TVerでも放送後1週間配信中）
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