期待した効果が得られないことを恐れる心理
顧客の不安とは、次のような原因によって引き起こされます。それは、自分の大切なお金(時間なども含む)と引き換えに、期待した効果を得られるかどうかに対する不安です。
期待した効果が得られると思えば、不安は少なくなり、「買う」という行動に移りますが、期待した効果が得られないのではと思えば、どんどん不安が増大して、「買わない」という決断になってしまうのです。
例えば「実際に使う機会が少ないかもしれない」という使用頻度の低さに関する不安は、多機能のオーブンなど特に利用シーンが限られる製品や高価な商品を購入する際に生まれます。顧客は製品のコストパフォーマンスや日常生活での実用性を検討します。この不安を解消するためには、製品の多用途性を強調し、さまざまなシーンでの使用例を提示することが重要です。
まず、製品の多用途性や汎用性に焦点を当てます。製品が提供するさまざまな機能や利用シナリオを紹介し、日常生活の多様な場面でどのように役立つかを示します。例えば、キッチンアイテムであれば、さまざまな料理に対応する多機能性、テクノロジー製品であれば、仕事、学習、娯楽などさまざまな用途に適応する汎用性などを強調します。
次に、製品の日常生活での使用例を具体的に提示します。実際に製品を使用する典型的なシナリオや、製品がもたらす具体的なメリットを紹介します。これにより、顧客は製品が日常生活にどのように組み込まれるかを簡単にイメージできます。
長期的な価値を理解してもらう
さらに、製品のコストパフォーマンスに関する情報を提供します。製品の価格に対する長期的な価値、耐久性、維持費用などを考慮した総合的なコスト効果分析を行い、顧客が製品の価値を理解できるようにします。
また、製品の柔軟な使用方法やクリエイティブな利用アイデアを提供します。製品を異なる方法で利用するためのアイデアやヒント、クリエイティブな活用事例などを紹介し、顧客が製品の可能性を広げることができるようにします。
最後に、製品のサポートとアフターサービスを強調します。お客様サポート、使用方法のガイド、メンテナンスサービスなど、製品を長期間にわたって安心して使用できるサポート体制を案内ます。
これらの対策を通じて、「実際に使う機会が少ないかもしれない」という使用頻度の低さに関する不安に対応し、製品が日常生活で広範囲に活用できることを示します。顧客が製品の多用途性や長期的な価値を理解し、購入に対してポジティブな見方を持つことができるようになります。
「後で後悔するかもしれない」という購入における後悔の可能性は、製品やサービスの購入を検討する際に一般的な不安です。このような不安を解消するためには、製品の価値と満足度を高め、自信を持って購入してもらう環境を提供することが重要です。
ロレックスの優れた不安対策
まず、製品の品質と性能に関する詳細な情報を提供します。これには、製品の優れた特性、革新的な機能、耐久性、効率性などが含まれます。例えば、今でこそ高級時計の最高峰の地位を維持しているロレックスですが、ロレックスが今の地位を築けたのも、創業者であるハンス・ウイルスドルフ(1881〜1960)の優れた不安対策のおかげなのです。このため、ロレックスの不安対策方法は、現在でも教材として活用されているほどです。
20世紀初頭、現在のアップルウォッチのように懐中時計を小さくした腕時計をしている男性が現れました。ところが、懐中時計を単に小さくしたものなので、とても壊れやすかったのです。そこでウイルスドルフは設計を根本から見直して、製作した防水の時計ケースが「オイスターケース」と言われるものでした。1つの金属の塊から削り出し、牡蠣の殻のようにぴったり閉じているこの時計はオイスターと名付けられました。こうして1926年、世界初の防水時計が完成しました。
『不安がなくなるとモノが売れる』(総合法令出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプしますしかし、これまでの常識を覆す新製品なので、それまで懐中時計を使っていた人たちは「防水といっても、水が入ったらどうするの?」という不安を抱きました。そこで、ウルスドルフが考えた不安対策が実際に防水を証明することです。
当時、余暇活動としてスポーツが注目されていました。そこで、ウイルスドルフは、メルセデス・グライツという女性の秘書にオイスターを着用させて、イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡を水泳で横断してもらいました。彼女はイギリス人女性として初めて海峡横断に成功したのです。
現在では、海のエベレストといわれる有名なオープンスイマーの聖地になりましたが、当時はドーバー海峡の横断に挑戦する人はほとんどいなかったため、グライツは一躍人気者となりました。
最も過酷な条件下で10時間以上水に浸かっていたにもかかわらず、その完璧な時を刻む時計は壊れることなく、その後の検査でもわずかな腐食や結露も見られませんでした。そのことをウィルスドルフは、ロンドンの新聞『デイリー・メール』の一面に全面広告を掲載し、顧客の不安を払拭したのです。
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