日本国内でEV電気自動車の充電器の普及が進まない中、新たな取り組みを始めた企業がある。設置費用ゼロ維持費用ゼロでシェアを拡大しているベンチャー企業「テラチャージ」の徳重社長に話を聞いた。
なぜ長野県の人気観光地で? EV充電器が増加のワケとは
年間200万人を超える観光客で賑わう長野県白馬村。ここで、2023年から続々と増えているのがEV充電器。白馬村役場を始め、ペンションの駐車場や、飲食店の駐車場にも。現在、白馬村内だけで60施設94口の充電器が設置されている。白馬村でコテージを営み、自らもEVを保有する福島さんは「寝ている間に、朝起きたら、車の充電がいっぱいになっているというのが一番便利。白馬村は安心して来られる場所」。
なぜ白馬村でEV充電器が増えているのか?
白馬村 丸山俊郎村長:
白馬村の自然環境で成り立っている村で特に雪の減少というのは(スキー場の)死活問題に関わる。しっかりと脱炭素に取り組んでいかなくてはいけない。その中でも観光と結びつくところで言うと、EVの普及というのは大きく寄与するものである。日本屈指のEV先進地域として全面的に取り組んでいくことによってそれらを達成していきたい。
ベンチャー企業「テラチャージ」 なぜ充電インフラ事業に参入?
この白馬村の充電器を手がけるのがベンチャー企業「テラチャージ」。
――徳重さんといえば、テラモーターズで電動のバイクをやった有名なベンチャー経営者起業家だが、なぜ今充電インフラビジネスなのか。
テラチャージ 徳重 徹社長:
今は実はインドで、EVのトゥクトゥクをメインでやっている。トップクラスのシェアではある。5~6年前から世界的にもEVの流れが来た。日本でも再度ですね、何かEVの事業をやりたいという中で、3年弱前にEVの充電インフラを始めた。やっと時代が来たという感じ。
――充電インフラは公共サービスのような感じもする。これを民間企業としてやっていこうと決意した理由は?
テラチャージ 徳重 徹社長:
EVの充電インフラはすぐに利益の出るビジネスではない。相当の信念と覚悟と長期的なコミットメント(約束)を持ってやらないと成り立たない。我々特に新産業で、世界で勝つという難しい事業をやっていくということを、会社の存在意義として非常に重視しているので、これこそまさにテラチャージがやるべき社会インフラ。
現在、日本各地に設置されているEV充電器は約4万口。そのうちテラチャージの充電器は8280口でシェアトップを誇る。経済産業省は2030年までに充電インフラを30万口にする目標を掲げている。
テラチャージ 徳重 徹社長:
こちらが弊社の充電機。この大きさがノーマルなタイプ、2台同時にできる。ホテルやショッピングモールに置いているタイプ。(コンセントの)口は、基本的にはみんな一緒。テスラだけ違うパターン。
EV充電器 増やすカギは… 「テラチャージ」の成長戦略
実はこのEV充電器。設置するにあたって、施設側の負担はゼロだという。施設側の負担がかからないというテラチャージのEV充電器。6kWの普通充電器の場合、利用料金は1時間ごとに400円。テラチャージが電気代の125円を施設側に支払い、残りの275円はテラチャージの取り分になる。
また6kWの普通充電器の設置には、1基当たり100万円の費用がかかるが、4分の3は補助金を使用し、残りをテラチャージが負担する。施設側が設置費用や維持費用を負担することは原則ない。
――場所さえ貸してくれれば無料で設置するビジネスと聞いた。
テラチャージ 徳重 徹社長:
最初は補助金(申請)を代行し、補助金で(設置施設が)で確保される面もあるが、説得の時間とお金、営業マンのコストがかかる。思い切って無料にして、設置も維持費もかからないとやった方が、営業コストとかマーケティング費用がかからない。そういう計算もあり、すぐに導入することが重要。
――テラチャージが作って、維持している。それで儲かるのか。
テラチャージ 徳重 徹社長:
最初は、もちろん補助金を活用したとしても、足が出る。実際の利益の出し方としてはEVユーザーが増えてきたときに、EVユーザーが1時間いくらで使って、その収益で中長期的に積み上げていく。すぐに利益を出そうとするモデルではない。10年は使うものなので、場所を取ることを逃してしまうと、もう後がない。「EVがこれから本当に普及しそうだ」と後からなるが、そしたら時すでに遅い。同じようなビジネスをやろうとしても、すでにもう占められている。
東京都では、条例により2025年4月から、新築マンションにEV充電器の設置が義務化される。賃貸マンションを管理する企業は「当社の保有している(マンションの)駐車場の問い合わせでもEV電源施設はあるかという問い合わせが徐々に多くなってきている。今後EV電気施設がない物件は、資産価値としては低くなっていくのではないか」という。
テラチャージが展開する充電器は、マンションやホテルなどに設置される「普通充電器」のほか、道の駅やサービスエリアなど、短時間で充電を行う「急速充電器」がある。家電量販店のコジマでは、2024年6月から急速充電器を設置している。コジマは「主要幹線道路沿いに多く出店しているため、車で来店する客が多い。買い物に来た客が、買い物の間に充電をする。充電に来た客が待っている間に買い物するなど、メリットがある」という。
――「EVの普及は思ったほど早くない。やはりハイブリッドだ」という雰囲気になってきているような気もする。
テラチャージ 徳重 徹社長:
今の足元でいうと、そういうことにはなっていると思う。だからといって、未来永劫ずっとハイブリッドなのかとか、ずっとガソリンなのかとかは、違ってくると思う。中長期で見たときには、EVのパーセンテージが相当数増えていく。
テラチャージ 徳重 徹社長:
チャージのビジネスも既に、インド、インドネシア、タイで展開している。例えばタイでは、EV車の新車販売に対する比率が、2年前が0.1%。去年1%で10倍。今直近月次では10%超えている。なぜEVを買うのと聞くと、皆さん口を揃えて言うのが「ランニングコストが3分の1」。走れば走るほど節約できる。日本は「EV1対ガソリン3」。ポイントは売れる車体が出るか。あとは価格だけ。価格がだいぶこなれてくれば、買う人は多いと思う。
――電欠に不安がある。何かあったとき困るじゃないかと。
テラチャージ 徳重 徹社長:
充電インフラはすごく重要なのが、実際使ってもらうっていうのもあるが、特に日本人は心理的な不安を一番気にする。(充電器が)あるので大丈夫だという安心材料の意味でも大事。
――EVの世界で、起業家としてやっていきたいという思いが、今も昔も変わらない?
テラチャージ 徳重 徹社長:
社会インフラの領域でスタートアップがちゃんとプレゼンスを出していくのは、これからの日本経済にとってもすごく大事なことだと思うし、テラチャージの存在意義だ。新しい産業で、世界で圧倒的に勝っている会社はまだほとんどない。まさに大リーグでは大谷ではないが、そういう事例を作っていかなければいけない。山口県出身なので、高杉晋作の気持ちもある。野球も好きでやっていたので、野茂英雄の気持ちもある。とにかく大変だが、我々が突破するということがすごくある。スタートアップ業界の者として実現したい。
EV普及のカギは価格と充電器 勝機は?ベンチャー企業の挑戦
充電器は一つ入ると、もう別のところは入ってこれないので、今のうちにいい場所全部取っておきたいという作戦。世界では大きな国でも2~3社で市場を寡占する。ITなどと似ている。だからこのタイミングでやっているという。この充電器、どんなものがあるのか。
「普通充電器」と「急速充電器」があるが、「普通充電器」はマンションなどに設置する3kWと、ホテルやゴルフ場などに設置する6kWタイプがある。そして道の駅や公共施設などには「急速充電器」を設置している。
――このビジネスモデルをどう見るか?
千葉商科大学教授 磯山友幸氏:
非常に面白い。ただ、今は利益が出ていないが、場所を取ることを最優先にしている。これは一種の賭け。ガッと普及してきたときには全部抑えられてるという。これはなかなか面白い。ちゃんと普及率がそこまで上がるかどうかがポイントだと思う。
――人々がたくさん使ってくれないと収益が上がらない。先に設置も維持費も、会社が負担してやっている。だからそのスピードがどれぐらいになるのかということだ。
千葉商科大学教授 磯山友幸氏:
あとは実際にそこから得られる利用料。競争が激しくなるとどんどん下がっていくが、下がる前に回収ができるかどうか。
EVが普及しないのは充電器がないからなのか、あるいは充電器がないからEVが普及しないのか。理由について見ていくと、最も多かったのが「充電ステーションが少ない」という理由。さらに「車体価格が高い」という声も多くあった。また「航続距離に不安がある」「自宅での充電が難しい」「電欠が怖い」などが続く。
――EVを何となく避けてるという理由は大きく分けると、「高い」というのと、「充電に関わること」。そこへの心配がEV普及のネックになっている。
千葉商科大学教授 磯山友幸氏:
長距離乗るときに、本当にちゃんと充電できるところがあるのかどうかと考える。だから充電できる場所が普及するのは先ではないか。先でないとEVは普及しないのかもしれない。
徳重社長は、2010年代に日本で電動オートバイを出して大変注目されたアントレプレナー。日本国内での電動バイクはなかなか普及せず、海外で展開している。だから「ビジネスはタイミングが大事」ということを繰り返し言っている。「充電のインフラは今がまさにそのタイミング」と話す徳重社長。果たして、これから普及が進むかどうか注目だ。
(BS-TBS『Bizスクエア』 10月26日放送より)
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