メタプラットフォームズの柱である広告事業の信頼が揺らいでいる。
起業家の前澤友作氏がfacebookを運営するメタを提訴する意向を示し、大きな話題となった、著名人の画像を不正使用して投資などを呼びかける詐欺広告。連日、大手メディアなどで取り上げられているが、この問題は日本だけにとどまるものではない。
オーストラリアでは当局がメタを告発しており、著名人の写真などを勝手に利用したネット広告に関して裁判で争われている。アメリカでも訴訟をめぐる動きが出るなど、世界各地で同じような問題が起きているのだ。
無断で肖像を使われている著名人はもちろん、広告によって詐欺に遭った被害者にとっても大きな問題だが、メタ自身にも、今後の事業を考えていくうえで極めて大きな影響を与えかねない。
直近決算は広告収入の伸びで絶好調
メタが2月に発表した2023年12月期決算では、“ターゲット広告王”とも言える同社の復活が鮮明となった。売上高が1349億ドル(前期比15.6%増)、営業利益は467億ドル(同61.5%増)で、売上高の97%を占める広告事業が16%伸びた。
4月24日(現地時間)に公表された直近の2024年1~3月期決算でも、広告収入の拡大は続き、facebookやInstagramなど同社が提供するSNSの利用者数は32億4000万人と、前年同期と比べ7%増加している。
こうした圧倒的なユーザー基盤を武器に、EC事業者や消費財メーカー、映像配信、ゲームなど、幅広いジャンルの広告主から出稿需要が集まった。
しかし、彼らのサイト上で掲出される広告には、前述のように世界各地でクレームが相次いでいる。この状況が続くならば、将来的に優良な広告主が離脱し、質の低い広告が利用者の離脱を促す負のスパイラルに陥る可能性がある。
著名人の画像を用いたなりすまし詐欺広告問題は、以前から他国においても取り沙汰されている。
メタが4月16日に出した詐欺広告に関するリリース文。プラットフォーム上の利用者を詐欺から守るための多面的な対策を講じている、と記している(画像:メタの公式ホームページより)オーストラリアの著名人の画像を不正に使用した広告を掲載したとして、オーストラリアの競争・消費者委員会(ACCC)は2022年にメタを告発。訴訟の行方はまだ決定していないものの、メタにとって有利な材料は見られない。
一方で、訴訟大国であるアメリカにおいて、メタがこうした問題を放置している責任を追及されていないのはなぜだろうか。
そのヒントは、オーストラリアの億万長者、アンドリュー・フォレスト氏が、アメリカ・ワシントン州で起こそうとした裁判の経緯から透けて見える。
アメリカでなぜ責任追及されないのか
フォレスト氏は、彼の肖像を用いて暗号通貨詐欺へと誘導する広告をメタが掲載したことに対する告発を行う中、オーストラリア国内では問題解決しないことからオーストラリア連邦政府に働きかけ、政府を通じてアメリカ・ワシントン州にて刑事告発していた。
しかしその事前協議の段階で、具体的な審議には進むことができず、アメリカでの裁判を断念した。
立ちはだかったのは、通信品位法の第230条にある「双方向コンピューター通信サービスのプロバイダーは、中傷的または違法なメッセージに対して責任を負わない」という規程だ。つまりアメリカでは法律上、メタのような双方向の情報交換サービス事業者は、投稿されたコンテンツに対する責任から解放されているのだ。
実際にメタ側は、2023年4月~11月の間にフォレスト氏の肖像を使った1000以上の広告がメタの広告として掲載されたことに異議は唱えず、代わりに230条を根拠として自己弁護したという。
アメリカ企業であるメタが公式に、こうした詐欺広告を掲載する業者を「共通の敵」と表現するのは、現地の法律にのっとって運営している通信プラットフォームを悪用された被害者である、という主張があるからと言える。
実は似たような事例はほかにもある。
Amazonマーケットプレイスへの不正な出品者に対し、Amazonの取り締まりが甘いとの批判が数年前に高まったのを記憶している人も多いだろう。
現在、かなりの数の不正出品者がアカウントを削除されたり、口座を凍結されたりしているが、それでもなお、偽のブランド品などを販売する事業者は根絶やしにはなっていない。
Amazonは不正アカウントの検出精度を上げるよう、自動的な審査のシステムを大幅に強化することで対応してきた。それでも根絶やしにできないのは、出品者自身やその商品の審査に関して、Amazonが主体的に関わることを避けたい意図があるからだと考えられる。
対策に取り組むメタの姿勢に疑問も
その根拠はメタの場合と同じだ。通信品位法第230条の恩恵を受けるために、掲載する情報に対して自らが主体的に関わるのではなく、あくまでも通信内容には関与しない立場を貫きたいためだ。
しかしながら、Amazonがマーケットプレイスの出品者の審査を厳しく行うようになったように、通信サービスとしてのブランド価値を毀損せず、ユーザーの離反を引き起こさないためには、メタも何らかの対策を取らざるをえなくなるだろう。
著名人のなりすまし、詐欺広告などは、第三者の肖像を勝手に使っている時点で、AIによる検知ツールで自動的に遮断する、あるいは有人の審査サービスにアラートを出す、といった対策を取れるはずだ。
日本だけでなくオーストラリアなどでも同様の問題が起きていることや、何度も同じ人物の肖像が繰り返し使われて詐欺が行われている様子をうかがう限り、そもそもAIを駆使して検出精度を上げているという主張すら、疑いを持たざるをえない。
AIを用いたシステムで使われる機械学習は、雑多な情報から傾向を導き出し、特定の情報を抽出することに長けた技術だ。不正広告の検出にAI技術を本気で応用しようとしているのであれば、人間による審査を併用することで大多数の問題を検出できるはずで、少なくとも同じ不正利用画像が何度も繰り返して広告に使われることはないはずだ。
ところが不思議なことに、メタに対する風当たりが強いEU圏においては、同様の不正広告をめぐる告発が見つからないのだ。これでは文句を言わない国や地域において、意図的にこの問題を放置していると言われても反論できないだろう。
これほどずさんな広告プラットフォームが放置されれば、各国政府による規制が強まる以前に、広告プラットフォームとしての価値が下がり、広告主の離反を引き起こす、あるいは業務の停止といった強い処分が下される可能性も出てくる。
230条は日本での免罪符になるのか
この230条にのっとった通信サービスプラットフォーム事業者の主張は、異なる企業であっても、判で押したように同じような論理で展開される。
「詐欺に取り組むために多面的なアプローチを採用しています。新しい機械学習技術などの技術と、人間によるレビューの両方を用いて、当社のポリシーに違反するコンテンツやアカウントを特定する」
この主張は、詐欺広告問題に関してオーストラリアのガーディアン誌が質問したときにメタから得られた回答だそうだが、まったく同じ回答を筆者はAmazonマーケットプレイスに関してAmazonから得たことがある。
しかしこのアメリカにおける法律が、日本市場において責任を逃れるための免罪符となるのかは疑問が残る。たとえ罰金などの直接的なペナルティーが加わらなかったとしても、問題の放置が彼らの広告事業にマイナスの影響を与える可能性は大いにあるだろう。
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