日本の株価を牽引する企業として、アメリカの金融大手ゴールドマンサックスが選定した「セブンサムライ」。7社のうち4社が半導体製造装置メーカー。そのうちの1社が半導体洗浄装置で世界トップシェアを誇る「SCREENホールディングス」。廣江社長に、強さの秘密を聞いた。
「SCREEN」廣江社長に聞く “オンリーワン”の強さの秘密とは!?
2024年2月、アメリカの金融大手ゴールドマンサックスは、日本の株価を牽引する7つの候補を映画「七人の侍」になぞらえ、「セブンサムライ」として選定。7社のうち4社は半導体製造装置のメーカーだ。
中でも、直近6ヶ月の株価上昇率でトップなのが、「SCREENホールディングス」。
SCREENは、半導体製造の各工程の前後にゴミを取り除く「洗浄装置」の世界シェア4割のトップメーカーとして、受託製造会社やロジック半導体メーカーなどを顧客に急成長している。
IR広報を担当する乙部千穂氏は、2023年11月の決算発表直後から投資家の反応が大きく変わったという。
SCREENホールディングス 経営戦略本部 乙部千穂執行役員:
過去4年間、中期経営計画を走らせてきた。そのなかで、業績もいろんな数字がジャンプアップし、「SCREENホールディングスは言っていたことを実現した」という信頼の方にガッと変わったと思う。
1年足らずで株価が約2倍に!? 話題の企業「SCREEN」廣江社長を直撃取材!
多忙の中、廣江敏朗社長に話を聞いた。
――ゴールドマンサックスが選ぶ「七人の侍」のうちの1社に選ばれた。
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
注目を浴びる存在になったんだという、非常に感慨深いものがあった。(7社のうち4社が半導体関連だが)AIブームが起こり、半導体の将来性がどんどん評価され今後も広がっていくんじゃないかと皆さんに思ってもらえた。それには最先端の装置がいると。
――社員も自分の会社の株価が、モチベーションアップになってる?
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
6月に従業員に「持ち株会に入ったら株を渡す」と大体10万円相当の株を渡した。そのときに7000円ぐらいだった。
――今は1万8000円から9000円。1年足らずで2倍に跳ね上がった!?
世界が注目する最先端の技術! 秘密は「江戸時代の絵」から!?
SCREENホールディングスの祖業は、明治元年(1868年)創業の石版印刷会社(石田旭山印刷所)。絵画を印刷するのに、平らな石の表面を加工した石版を使用するが、当時はその石材も加工する機材もドイツからの輸入に頼っていた。
昭和18年(1943年)、写真印刷用のガラス板の国産化を目指し、「大日本スクリーン製造」を設立。「スクリーン」は現在の社名の由来となっている。
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
(会社は)元々、絵描きだった。江戸時代の絵。この絵をそのまま再現したくて印刷業に入っていった。(同じ絵を何枚も作って売りたいと)海外から印刷技術を導入して石版印刷という技術を入れたがそれが「パターンニング」の技術。(石版の)表面にインクが載りやすい液で絵を描き周りに水を含ませ、水から弾いたインクが先ほど描いた上に載る。「表面改質」表面を改質することで、インクを転写する技術がオリジナル。
――エッチングで切れ目を入れ、材料を塗ってそれを転写すると。
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
半導体も「フォトリソグラフィ」という技術がよく使われる。光で感光して「パターニング」していく。そこを「エッチング」したり、色んな加工を施したりしているのが半導体技術。
そういう意味では印刷の延長線上にある技術と見ても間違いない。
SCREENの2024年3月期。グループ全体の売上の8割は半導体製造装置事業が占めている。そのうちの9割以上は洗浄装置によるもの。
名神高速道路や東海道新幹線が通る、琵琶湖東岸に位置する滋賀県彦根市。東京ドーム4.5個分の敷地に5棟からなる工場群。洗浄装置をはじめ、大部分はここで製造されている。最寄り駅の近江鉄道多賀線、その名も「スクリーン駅」。約3000人の従業員の通勤の便宜を考え、駅舎は工場の敷地内に設けられている。
山口貴大氏は2022年出荷を始めた最新の洗浄装置「SU3400」の開発責任者を務めた。
機密事項が多い為、「SU3400」を模型で説明してもらった。
「SU3400」はSCREEN最新の枚葉式洗浄装置。すでに世界中の半導体製造ラインで稼働するSCREENの“虎の子”だ。
SCREENホールディングス 洗浄技術開発部 山口貴大副部長:
セットされたウエハーはロボットが自動で搬送。ウエハーは水平方向に回転し薬液で洗い、水をすすぎ乾燥。完了後、ロボットがまたウエハーを持って、こちらのフープに戻す。
洗浄は500以上ある半導体製造工程の3割を占める。半導体産業が水を大量に消費するといわれるゆえんだ。微細化に伴う歩留まり率低下を避けたいメーカーは洗浄に求めるレベルを年々上げている。
ヒットの理由、その1は「期待に応える圧倒的洗浄能力」だ。特殊な検査装置で見たゴミ。
SCREENホールディングス 洗浄技術開発部 山口貴大副部長:
ゴミはインフルエンザウイルスより小さいナノサイズ。ナノメートルは1メートルの10億分の1。このウエハーが(直径)30センチ。これを野球場の大きさにすると、ナノスケールのごみは花粉より小さいごみを取り除くようなもの。(処理スピードは?)「作る前に作る」というコンセプトでシミュレーションして設計を最適化した。
制御方法を1から見直し、1時間当たり30センチのウエハーを1200枚洗浄可能という世界最高レベルの生産性を達成した。さらに…
SCREENホールディングス 洗浄技術開発部 山口貴大副部長:
ウエハー1枚あたりに必要な薬液を従来比で25%減、水30%減、エネルギーの消費を40%以上削減している。
「歩留まりを上げ、生産コストは下げる、環境負荷は低減したい」誰もが求める要望を同時にクリアした。これがヒットの理由、その2「トップクラスの生産性と環境性能」。
SCREENの2024年3月期決算の見通しは売上5000億円。過去最高の決算見込まれている。利益も880億円の予想。営業利益率も17%。製造業としては大変高い数字だ。
――世界的に半導体製造装置に対する需要が強い。
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
半導体メーカー自身、半導体をどんどん流布していきたいと2033年、約10年後には今の倍近く売り上げを伸ばしたいと。(しかし)倍以上に伸ばそうとすると、とてつもないエネルギーが必要。半導体チップ自体も電気を食って仕事をしているのでエネルギー量が莫大に増える。では何をするか。「技術革新」しかない。省電力のチップを生み出す。そういう技術を取り入れながら、省電力にしていかないと倍増しない。
――省電力がどれだけできるかということか。
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
1つは微細化。微細化すると少ない電流でチップが動く。(どんどん微細化されても今までと同等の洗浄能力が維持できるか)一番大事だ。「(省電力化の)微細化を止めない」ことが非常に重要。当然、客のリードに我々(装置メーカー)はついていくことが非常に重要。
――VR、自動運転、生成AI… 私達が夢見るAIがリードする未来予想図は実現可能?
SCREENホールディングス 廣江敏朗社長:
実現すると思う。このスマートフォンにも近々AIが載るといわれている。バッテリー駆動でAIが動くということは非常に省電力のチップができたということ。(スマホにAIが乗るように、いろんな機器にAIが載ってくる)IoTという時代だが、半導体の需要はずっと広がる。装置メーカーと材料メーカーは、日本は非常に競争力が高く保っている。今回、北海道で新たなプロジェクトが起こる。競争力を国内で担保してもらうことを精一杯応援したい。
(BS-TBS『Bizスクエア』 4月20日放送より)
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細川昌彦 氏
1977年~2006年 経済産業省米州課長など歴任。鉄鋼・自動車など日米の通商交渉を最前線で担当。近著『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』。
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