(ブルームバーグ):米国家安全保障リスクを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)は日本製鉄に対し、米鉄鋼大手USスチール買収計画を再申請する許可を与えた。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。政治論争を招く買収案に関する判断は11月の選挙後まで持ち越される公算が大きいという。

バイデン大統領はUSスチールに関して、引き続き米国所有と明言し、買収を阻止する準備を進めているとされているが、今回の延長で実質的にリスタートすることになり、買収案の存続が可能となる。

バイデン米大統領、日本製鉄のUSスチール買収計画阻止へ-関係者

こうした先送りでも、バイデン大統領は買収案への反対姿勢を曖昧にしている様子を見せていない。審査に関する詳細だとして匿名を条件に関係者が語った。

日鉄によるUSスチール買収計画は、特にUSスチールと買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)が拠点を置くスイングステートのペンシルベニア州で選挙の争点となっている。

バイデン氏は数カ月にわたり買収に反対してきたが、中止させるまでには至らず、代わりにCFIUSによる審査に委ねた。11月の米大統領選で争うハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領もこの買収に反対している。

危機に瀕する巨額買収、日鉄と労組の埋まらぬ溝-大統領に書簡

USWのマッコール会長は発表文で、「バイデン大統領とハリス副大統領はいずれもUSスチールが引き続き国内で所有され、運営されるべきだと信じていると明確に述べており、USW組合員とその雇用に対する確固たる支持を維持している」と表明。「最終的には、日鉄による買収が国家安全保障にもたらすリスクや、すでに指摘されている重要なサプライチェーンに関する懸念は何も変わっていない」と主張した。

USスチールにコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。

事情に詳しい関係者によると、日鉄は審査の再申請を要請し、CFIUSはこれに同意した。CFIUSは、重要なサプライチェーンの強靱(きょうじん)性を含め、今回の取引を巡る国家安全保障上の重要性を十分把握し、当事者と関与するために時間をさらに必要としていると、関係者の1人が話した。

CFIUSは、外国企業による米国内企業などの買収提案を精査する委員会だ。審査は通常、日本のような同盟国ではなく、中国などを対象としている。

事情に詳しい関係者によれば、CFIUSの判断期限は9月23日だった。今回の再申請の動きで事実上、90日間の審査期間が新たにスタートすることになるが、判断はそれよりも早く下される可能性もある。

日鉄、バイデン政権に翻意促す-USスチール買収で土壇場の働き掛け

ホワイトハウスのシャーマ報道官は17日夜の声明で、「USスチールが国内で所有・運営される米鉄鋼会社であり続けることが極めて重要だというのが大統領と副大統領の立場だ」と指摘。いわゆる「遅れ」というものはなく、CFIUSから勧告を受け取っておらず、CFIUSのプロセスは続いていると述べた。

数年にわたり業績が低迷しているUSスチールは、同社施設には多額の新規投資が必要で、日鉄による買収が完了しなければ、一部の工場は閉鎖され、本社をピッツバーグから移す可能性もあると警告している。

日鉄は今回の取引から自発的に手を引く計画はないことを示唆している。

森屋宏官房副長官は18日午前の定例会見で、報道については承知しているとしながらも、「個別の企業の経営に関する事案でコメントを差し控えたい」と述べた。その上で、「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層強化、インド太平洋地域における持続的・包摂的な成長の実現、安全保障分野における協力等は互いに不可欠であると認識している」と話した。

原題:Nippon Steel to Get Extension, Pushing Deal Review Past Vote (1)(抜粋)

(森屋官房副長官の定例会見での発言などを追加し更新します)

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