特集は涙の閉店です。長野市の繁華街のそばで45年続いた喫茶店が8月24日、閉店しました。体調がすぐれない中、最後まで店に立ち続けたマスターと感謝を伝えに訪れた常連客。最後の一日を取材しました。


■店を一人で切り盛り 

権堂アーケードの東・西鶴賀商店街にある「珈琲館 珈香」。

8月24日が最後の営業でした。

花束を持ってきた客:
「40年お世話になりました。おいしいランチを」


店を1人で営んできたマスターの久保田富夫さん(64)。

体調がすぐれず、店を閉じることにしたのです。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「きょうは走り切る気持ちで来ているんですけど、すごいなと、お客さんの(数が)。泣かないで送り出したいと思ってます、みんなを」


■オープンは1978年 当時19歳 

珈香のオープンは1978年・昭和53年の12月。

当時19歳の久保田さんが母・和美さんと始めました。


土地柄、店は夕方から夜にかけてにぎわいましたが、徐々に繁華街が元気を失うと客足が減少。ピンチを迎えた店は1990年代に入ってから「モーニング」を始めました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「(当初は)誰も来ないんですよ。でもきょう1日、きょう1日って、頑張ってみて(モーニングを始めて)1カ月たったときに、2人の年配のお客さんが来てくれるようになって。その2人に救われて、今の朝7時半っていう営業が定着した」


■“マスターの人柄” ファン定着

外食の多様化が進んだ2000年代からは「ランチ」にも力を入れました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「ニンジンでドレッシングを作って、あとアンチョビとキャベツのパスタをつけて」

客:
「元気がないときに食べると元気が出る」
「創作料理を出してくれるから飽きなくて、いつも楽しみに」


「味」だけでなく「マスターの人柄」もファンが定着した理由です。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「気を付けていけよ、いってらっしゃい」

店を出る客には必ず声をかけます。

久保田富夫さん:
「いろんなお店がある中でここを選んでくれて感謝の気持ち。また職場に戻ったりするわけだから家を出るときと同じ感覚」


■閉店は妻への誕生日プレゼント

昭和の香りを残す店。久保田さんは以前、「最低でも50年は続けたい」と話していました。

しかし、3年前に患った肺炎の影響で体調が思わしくなく、苦渋の決断をしました。最後の日を「8月24日」にしたのには訳があります。

久保田さん(8月13日):
「妻が8月25日が誕生日なんですよ。今まで何一つプレゼントしたことがなくて、『最後に私が望むプレゼントがほしい』と。『お店をやめて、ゆっくり体のことを考えて休んでほしい』と言われて。体的にはきついけど、エプロンをしてカウンターに立つと、みんなからやっぱり力もらえるんで、やっぱりこの仕事が天職だったんだと思う。それが分かって、幸せなんだよね」

久保田さん:
「いってらっしゃい」


■昭和の喫茶“最後の日”

8月24日―。

迎えた「珈香」最後の日。

多くの常連客が訪れ別れを惜しみました。

7年通った客:
「(あるのが)当たり前すぎて、まだ実感がなくて。通りかかって閉まってたら『閉まっちゃったんだな』って思うかも」

10年以上通った男性:
「ご苦労さまですけど、寂しい。ぽっかりと穴が開いた状態になると思う。“珈香ロス”です」


10年来の常連:
「彼の人柄だよね。優しいし、気配りも。彼の人間性にほれてみんな来ているんだと思う」

久保田さん:
「ありがとうございました」

10年来の常連:
「気を付けてやれよ。早く治せよ」

久保田さん:
「いってらっしゃい」


店を手伝う男性。父親をサポートしようと駆けつけた息子の天地さん(32)です。

息子・天地さん:
「『継がないのか』とよく言われるんですけど、マスターあっての『珈香』なので、自分が継いだってなると全く違う店になってしまうので、きれいなまま終わらせたいなと。体はボロボロかもしれませんけど、笑顔のうちに店を閉められたのが幸せだなと」


■常連客「寂しいね、お疲れさま」

夫婦で訪れた客:
「お疲れさまです」

久保田さん:
「ありがとう」

市内から訪れた横山さん夫婦。この3年、土曜はほぼ必ず「珈香」でモーニングを楽しんできました。

最後のモーニングにー。


妻・幸枝さん:
「パンが分厚いのと、バターの味がおいしいです。ほんとに終わっちゃうと思うと寂しいね」

夫・賢太朗さん:
「(最後のモーニングを)ゆっくり楽しんで、目に焼き付けて」


最後に記念写真―。

市内から訪れた夫婦:
「ありがとうございました」

久保田さん:
「どうもありがとう、いってらっしゃい」


■妻「お父さん、きれいに店閉めようよ」

午後4時過ぎ―。

閉店の時間を迎えました。

体を気遣い、店を閉じるよう頼んだ妻・美恵子さんの姿も。

妻・美恵子さん:
「病気がね、みんなにお世話になったことを『ありがとう』って言えない状態で店を閉めることがすごく嫌だったので、『お父さんきれいに店閉めようよ』って」


常連客:
「マスターみたいに、うまくいかないですね」

最後に常連客が感謝を込めて久保田さんのためにコーヒーをー。

久保田さん:
「熱い!おいしい」


常連客:
「じゃあこれで、いってきます」

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「ありがとう、気をつけてな。いってらっしゃい」

最後の客もいつも通りの笑顔でー

久保田さん:
「いってらっしゃい、サンキュー」


■客に愛され、家族に支えられ

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「マラソンなんかやったことないけどそんな感じ、気持ちいい。写真見たり、いただいたものを振り返って、切なくていられなくなるかもしれない。もうここには立てない。ここがすべてだったので、本当、みんなに感謝」


閉店を決断させた妻の美恵子さんにも感謝です。

久保田さん:
「俺はだらだら行きたかったんだけど、いい線引きをしてくれました」

妻・美恵子さん:
「いてくれればいいんですよ、本当に。いてくれればいいので、そのためにやめてもらいたい。ずっと一緒にいたいので、一日一日大事にしていきます」

久保田さん:
「ありがとう。やばいな、音声だけ使って」


客に愛され、家族に支えられー。

街角の喫茶店が45年の歴史に幕を下ろしました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「19の鼻水垂らしているときから64で頭がはげる時まで、本当全てです。ここから見える景色がすべてです。もう仕事はこれで終わり。あとは妻と子どもたちと孫たちと、静かに暮らしていければいいかな」

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。