(ブルームバーグ):アップル株が快走を続けている。株価を押し上げているのは人工知能(AI)機能を搭載した新型スマートフォン「iPhone」への期待だ。だが、アップル株は新製品の発表後に通常アンダーパフォームすることが多く、少なくとも短期的には売られやすい地合いとなる恐れがある。

背景には、アップルがクリアすべき市場の期待が極めて高いことに加え、予想株価収益率(PER)が割高なことがあり、実質的に少しのミスも許されない状況にアップルが置かれているためだ。同社は9月9日に製品発表イベントを開催する。

ブルームバーグがまとめたデータによると、アップル株は過去の新型iPhone発表会17回のうち、12回で下落している。また過去10年間において、9月はアップル株にとって最悪の月であり、平均で3.2%下落。ストック・トレーダーズ・アルマナックによると、S&P500種株価指数とダウ工業株30種平均も9月に最大の下落率を記録しており、市場全体で売りが出やすい季節だ。

新型iPhoneが機能や販売の面で期待に応えられなかった場合、アップル株は過去と同じ運命をたどる可能性がある。

「市場の熱狂がこれほど高まっている中で、アップルのAI戦略が奏功しているか見極めるのに具体的な確証を待つ必要が出てくる展開も容易に想像できる」。こう指摘するのは、70億ドル(約1兆200億円)規模のジャナス・ヘンダーソン・グローバル・テクノロジー・イノベーション・ファンドを運用するデニー・フィッシュ氏だ。「AI機能を望む声がある一方で、懐疑的な見方もくすぶっており、バリュエーションは割高だ」とし、「一般的に買いの好機とは言えない」と同氏は述べた。

過去10年のアップル株の月間パフォーマンス

アップル株は4月につけた安値から39%値上がりしている。ブルームバーグがまとめたデータによると、これにより時価総額は9000億ドル余り拡大。同期間におけるナスダック100指数の上昇分のうち22.6%を占め、寄与度で構成銘柄トップだった。

アップルの予想PERは現在31倍と、過去10年の平均を50%余り上回る。先月には株価売上高倍率(PSR)が8.8倍と、少なくとも2000年以降で過去最高に達した。

アップルのPSR推移

アップルのAI戦略に対する楽観論は、株価上昇の大きな原動力となっている。シティはアップルを2025年のAIトップ・ピックに選定。ダニエル・ローブ氏率いるヘッジファンド運営会社サード・ポイントはアップル株を取得し、「AI関連の需要は今後数年間、アップルの売上高と利益を大きく改善させる可能性がある」と投資家向けの書簡で指摘した。

ウォール街では、AI搭載の新型iPhoneが大規模な買い換えを促し、成長加速に寄与するとの期待が強い。

新型iPhoneの購入予定者は潜在的に膨大な数に上る。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、現在使用されているiPhone8億台余りのうち、40%以上がiPhone 12かそれより旧型、さらに27%がiPhone 13だ。現在のiPhoneユーザーのうち、AIソフトウエアに更新可能な機種を持っている人は10%にも満たない。

一方で、BIが7月に実施した米国の消費者を対象とする調査では、AIだけではスマホの買い換えに不十分である可能性が示された。これはアップル株にとってリスクとなる。

モフェットネイサンソンは先頃、アップルのカバーを「中立」で開始した。アップルのバリュエーションは「2021・22年の第5世代(5G)通信対応iPhoneの発売時よりも大規模な買い換えサイクルを織り込んでいる水準だ」と指摘。とりわけ金利情勢を踏まえると、アップルがこれを実現できるか、モフェットネイサンソンは懐疑的な見方を示している。

こうしたリスクにもかかわらず、AIがアップルの長期的な成長に与える影響という点を巡っては、依然として楽観的な見方が存在する。また買い換えサイクルは数年にわたって続くとも予想されている。

キャンター・フィッツジェラルドのチーフ株式・マクロストラテジスト、エリック・ジョンストン氏は「新型iPhoneの発表後に売りが出たとしても、長期的には売上高と利益をもたらす見通しで、そうなれば株価のモメンタムを高める」と指摘。「足元のバリュエーションは明らかに割高だが、モメンタムがあれば割高な銘柄は割高な水準を維持できる。アップルもそうだろう」と述べた。

原題:Apple Rally Fueled by AI Promises Approaches a Crucial Test(抜粋)

--取材協力:Subrat Patnaik.

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