(ブルームバーグ):7月の日本銀行の追加利上げと最近の米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ示唆を受け、為替ストラテジストが円相場の方向性を見直している。

日銀が7月末に追加利上げを決める前、多くのストラテジストは今年前半に対ドルで10%以上進んだ円安がさらに進むと警告していた。バンク・オブ・アメリカやATFXグローバル・マーケッツ、ロイヤル・バンク・オブ・カナダは6月の時点で、日本の為替介入で円の下落は止められず、再び1ドル=160円を突破する可能性があると主張していた。

しかし、ここ数週間でストラテジストの見方は大きく変化し、今は円高基調が続いて年内に一段と円が上昇する可能性があるとみている。

こうした変化の背景には日米の金利差が縮小するとの見通しがある。パウエルFRB議長は8月下旬のジャクソンホールでの講演で「政策を調整する時が来た」と言明。一方、日銀は2本の論文でさらなる利上げの可能性を示唆し、植田和男総裁も国会で同様の発言を行った。

オーバーシー・チャイニーズ銀行のFXストラテジスト、クリストファー・ウォン氏は、「これらの出来事によりドル・円予想を引き下げる確信を強めた」と話す。同行は12月末の予想を141円から138円に変更。「FRBが利下げサイクル入りするということは、FRBと日銀の政策が乖離(かいり)から収束へシフトすることを意味する」と指摘する。

7月上旬に付けた約38年ぶり安値からの円の急速な反転は、既に世界市場で多くのキャリートレードの崩壊をもたらした。円高の進行は、最近まで日本株の力強い上昇をけん引してきた日本の輸出企業の収益にとってもリスクだ。

円に対してより強気なマッコーリー・グループは、年末予想を142円から135円に修正した。これは2023年5月以来の円高水準で、スタンダード・チャータード銀行は年末140円、25年第1四半期を136円と予想する。

米利下げ幅と日銀利上げ時期

今後の円相場を占う上で引き続き鍵を握るのが、米国の経済指標とFRBの金融政策だ。パウエル議長の講演後、ドルが幅広く売られる中で円は143円45銭と8月5日の急騰以来の高値を付けた。

スワップトレーダーは、FRBが9月に少なくとも25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げを行うことに賭けており、50bpの大幅利下げも4分の1の確率で織り込んでいる。

マッコーリーの外為・金利ストラテジスト、ガレス・ベリー氏(シンガポール在勤)は、ドル・円予想を変更した理由は「90%ジャクソンホールだった」と説明。「パウエル議長は事実上、利下げを約束し、労働市場が悪化すればより積極的な緩和を実施する可能性さえちらつかせた」と話す。

一方、日銀による今後の追加利上げの時期について、市場の見方はより分かれている。植田総裁は国会での答弁で、経済と物価が予測通りに推移すれば金融緩和をさらに調整する方針を改めて示したが、利上げが差し迫っているとは示唆しなかった。

スタンダード・チャータードのストラテジスト、スティーブ・イングランダーとニコラス・チアの両氏はリポートで、市場は第4四半期に「日銀がよりタカ派化する可能性を過小評価しているかもしれない」と指摘。植田総裁の発言は、9月27日に行われる自民党総裁選後に追加利上げが行われるとの期待を強めるものとの見方を示した。

2日午前8時52分時点のドル・円は146円38銭付近で推移している。

米雇用統計を注視

オーストラリア・コモンウェルス銀行の為替ストラテジスト、キャロル・コング氏は、年末145円との予想を変えていないが、25年末には139円に向けて円高が進むと見込む。

円の上昇に懐疑的な見方もある。BofA証券は年末のレンジを150-155円と想定。山田修輔主席FX・金利ストラテジストは「FRBの利下げイコール円高なのかというと、そうはみていない。歴史的に見ても、利下げの時にドル・ 円が下がっているわけではない」と話す。

6月時点で年内160円近辺での推移を予想していたバークレイズ証券の門田真一郎チーフ為替ストラテジストは「日銀よりも米国で何が起こるかの方が重要」と指摘。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の前に発表される米雇用統計が弱い結果となれば、「ドルはさらに売られる可能性がある」とみている。

--取材協力:酒井大輔.

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