(ブルームバーグ):外国為替市場で一部日本企業の想定を超える円高が進み、グローバル企業や輸出関連企業の業績下方修正リスクが日本株相場の本格的な回復を妨げている。
日本銀行が7月に利上げした半面、米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げがほぼ確実になり、日米金利差の縮小観測で8月の円相場は対ドルで3.5%上昇している。7月初めに161円95銭と38年ぶりの安値を付けた後、8月初めには141円70銭と1月以来の水準まで反発。日銀の6月の企業短期経済観測調査(短観)で示された2024年度の企業の想定レートである144円77銭を上回る場面が増えてきた。
日本企業は業績計画や前提となる想定為替レートを保守的に見積もる傾向があり、期初段階では保守的と受け止められ、四半期決算が進むにつれ上方修正期待が株価に織り込まれるパターンが多かった。今年度も7月までの円安進行を受けた上振れ期待が日経平均株価の史上最高値更新を後押ししたが、足元の円相場の反転でこれまでのパターンから外れる可能性が高まっている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は、今年度は145-150円が心地良い水準で、「140円台前半になると業績下方修正リスクが認識され、株価の評価が変わってくる」と指摘。歴史的に見て、短観の想定レートより円高になった場合、日経平均は下落する傾向があると言う。
8月初めの世界的な株価急落の後、日本株の戻りは米国株と比べ遅れている。米S&P500種株価指数は月初来で1.3%上昇し、既に急落分を埋め最高値に接近。これに対し日経平均は1.9%安と回復力は鈍く、7月の最高値を約10%下回っている。
丸三証券の柏原延行常務執行役員は、日米株価の差異は「1ドル=140円割れに対する懸念が最大の理由」と分析。130円台に上昇すれば、投資家心理を冷やすとの見方を示す。
時価総額の大きい自動車株は、為替変動が業績に大きな影響を及ぼす代表的業種だ。トヨタ自動車の今期(25年3月期)想定レートは145円、ホンダは140円。野村証券によると、海外生産比率の高まりで1円の変動が日本企業(全産業)の経常利益に及ぼす影響は20年以上前の1.1%から0.4%、自動車でも2%から1%程度に低下したが、他の業種に比べれば感応度は依然高い。
市場の一部では年内に135円、2年後には120円を突破する円高予想も出始めており、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフ・マーケット・ストラテジストは「大幅にドル安・円高が進めばサプライズとなり、株式市場に強い向かい風が吹く」と予測。一方、米景気の軟着陸シナリオが強まれば為替は落ち着くとみられ、当面は米国の経済指標や利下げに注視する必要があるとしている。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストも、日本企業の業績計画が「今や保守的ではなくなってきた」としつつ、自動車と同様にグローバル企業が多い電機セクターについては在庫調整が進んでおり、数量ベースでのアップサイドがあるなど業種間で濃淡が出てくる可能性を指摘した。
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