(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁はきょう、衆参両院で開催される閉会中審査に出席する。総裁が発したタカ派的なシグナルが今月初めの世界的な株価下落につながったこともあり、投資家はサプライズを警戒する。

審査では、植田総裁が5時間にわたって答弁する。衆院財務金融委員会は午前9時30分から、参院財政金融委員会は午後1時から始まり、所要時間はそれぞれ2時間半を予定している。

意見聴取の数時間後にはパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が米ジャクソンホール会議で講演するため、植田総裁は市場が平静を保つよう、サプライズを起こさないような発言に終始するだろう。日銀ウオッチャーは、総裁がタカ派的なシグナルの度合いを調整する一方、経済・物価情勢が見通しに沿って推移すれば、慎重に利上げを進めていく姿勢を示すとみている。

今回の審査は国会が閉会中に行われる異例のもので、それは日銀の政策正常化プロセスや、7月31日の利上げ決定後の市場混乱を巡って政治家が納得していないことを映している。

植田総裁のタカ派的シグナルは、今月、世界の株式市場から最大6兆4000億ドル(約930兆円)もの資金が消失する一因になったとみなされた。円相場の急騰で円キャリートレードは巻き戻しを迫られ、日経平均株価の歴史的な急落を招いた。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「植田総裁がハト派的なメッセージを強調する可能性は低いとみている。為替は政策当局者からみればまだ円安といえる水準であり、株式市場も落ち着きを取り戻す中、日銀の政策正常化シナリオがとん挫したとは考えにくい。植田総裁の発言次第では、円キャリートレードの巻き戻しをさらに促す可能性もあるだろう」

木村太郎シニアエコノミスト

植田総裁の説明は、市場が不安定な状況で利上げは行わないと述べて市場の動揺を鎮めようとした内田真一日銀副総裁と同じようなトーンになると予想される。内田副総裁はまた、「当面」は現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要があるとの考えも示した。

7日の内田副総裁の発言以降、市場の大部分は落ち着きを取り戻している。それを踏まえて市場関係者は植田総裁の言葉やトーンにわずかな変化がないかどうかを分析するだろう。今月初めにブルームバーグが実施した調査によれば、大半のエコノミストは日銀が10-12月期か来年1月に追加利上げに踏み切るとみている。

日本で起きている政治の変化も、植田総裁が可能な限り平然とした態度でいることを促す要因の一つだ。植田氏を総裁に抜てきした岸田文雄首相が自民党総裁選への不出馬を表明したため、植田総裁は政治家からの信頼を確保したいだろう。9月27日投開票の自民党総裁選で岸田首相の後任が決まる。

植田総裁の発言は、日銀ウオッチャーや政治からおおおむね好意的に受け止められているが、時に激しい批判にさらされることもある。4月には急激な円安進行に対して危機感が薄いと受け止められる発言をした。政府は円安に歯止めをかけるため為替市場に介入せざるを得なくなった。

植田総裁は記者や政治家からの質問に対して詳細な説明をし、時にさまざまな角度から回答する特徴がある。事情に詳しい複数の関係者によれば、日銀総裁としては戦後初の学者出身である植田氏は、公の場でさまざまなシナリオを考察することをためらわないため、日銀当局者を不安にさせることがある。

原題:BOJ Ueda’s First Appearance Since Turmoil Has Investors on Edge (抜粋)

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