(ブルームバーグ):9月の自民党総裁選挙は、既に出馬を表明した小林鷹之前経済安全保障担当相の他にも多くの議員の立候補が取り沙汰され、株式・金融市場では早くも候補者のこれまでの発言などから相場の方向性を探る動きが始まっている。日本経済が長年のデフレから脱却しつつある中、特に金融政策の正常化を巡る姿勢は日本銀行の次の一手にも影響を及ぼしかねない。
石破茂元幹事長や河野太郎デジタル相、茂木敏充幹事長が選出された場合、金融政策の正常化に前向きなタカ派のイメージが金利上昇につながり、円高や株安につながるとの見方が多い。一方、積極財政を掲げる高市早苗経済安全保障担当相はハト派の印象が強く、日銀は利上げしにくくなるとの声が上がる。立候補者の具体的な政策や選挙戦のすう勢が今後明確に見えてくれば、今後大きく買われたり、売られたりするセクターや銘柄が出てきそうだ。
BofA証券エコノミストのデバリエいづみ氏は本命不在の感が強く、「特定候補に関連した政策トレードを織り込むのは時期尚早」としながらも、市場への影響が見込まれる2つのポイントに言及。一つは金融緩和を重視するアベノミクスの枠組みを踏襲するのか、それとも日銀の政策正常化と財政再建への取り組みを促進するのかで、もう一つは円安是正を優先するか、円安の恩恵に重点を置くかだと言う。
現時点で市場関係者が想定する相場への影響は次の通り。
株式
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト
- 茂木氏は日本でのライドシェア全面解禁を唱えて日本政府に規制緩和を促すなど、小泉進次郎元環境相と同様に規制緩和重視派の側面がある
- 保守派、積極財政派として知られる高市氏が選ばれる場合、岸田文雄政権の政策から大きな変化が生じる可能性がある
バークレイズ証券の馬場直彦チーフ・エコノミストと橋本龍一郎エコノミスト
- 金融政策面で相対的にタカ派とみられている石破氏、河野氏、茂木氏は円高に反応し、株安になるだろう
- 逆に高市氏が勝利した場合はその反対の展開になる可能性がある
みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジスト
- 岸田首相が少額投資非課税制度(NISA)拡充など株式市場にプラスの政策を取ったため、弱者救済・地方創生を重視する石破氏らが後任になると、株式市場にフレンドリーな政策が後退するとの懸念がある
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト
- 河野氏は規制改革に積極的なイメージで、生産性の改善で株価は上昇に向かう
- 直近のタカ派発言による金利上昇が円高につながったことは株安要因だが、規制緩和を通じた株高も想定できる
大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当
- 政権が変われば、日銀への干渉がリセットされる可能性がある。日銀がコア物価だけに集中して緩和的な金融環境の維持に努めることができると、株価にもデフレ脱却にもポジティブ
- ただし、今回日銀に利上げを要求した政治家も有力候補で注意も必要だ。円安が進むたびにタカ派的な姿勢を求める現在のロジック継続や増税論議に懸念。経済に明るい自民党総裁を期待したい
為替
三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリスト
- 河野氏と茂木氏、石破氏は直接的に金融政策に関する発言をしており、金融政策正常化に前向きと考えられる
- 正常化が進むことによる国内外の金利差縮小は円高要因だ
- 高市氏はリフレ派の期待を一身に背負う可能性があり、金融政策正常化が進まず円安のイメージ
- ただ、経済に関する発言は最近なく、安倍晋三元首相の後継を自認しているというイメージが先行している
- 高市氏や小林氏は岸田首相の路線を継承する部分もある
- 対内直接投資の受け入れを進める可能性があり、資金フローの面で円高要因になり得る
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジスト
- 小林氏や小泉氏のような非常に若い総裁が選出された場合、海外から見ると円が買われる要素になってくる
日銀政策・債券
三井住友DSアセットマネジメントの武内荘平シニアファンドマネジャー
- 党執行部、現政権幹部の茂木氏や河野氏は7月の日銀金融政策決定会合前に利上げをすべきだと述べており、日銀は正常化を進めやすい
- 一方、高市氏はリフレ路線を進めるとみられ、日銀にとって利上げは力仕事になりそう
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジスト
- 現段階においては、新首相の経済政策や衆院解散総選挙のスケジュールなど不透明感が強く、日銀の利上げ織り込みを復活させる材料にはなりにくい
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミスト
- 新首相の下でいかなる政策が講じられるかは現時点で未知数だが、財政規律を確保しつつの政策運営であれば、日銀の正常化プロセスに対して大きな障害にはなり得ないだろう
- 財政規律重視を明示した2024年の「骨太の方針」の精神が維持されるならば、植田和男総裁の前途をふさがない。対して財政規律を無視した財政拡張が講じられる場合には、長期金利の過度の上昇リスクが問題となり、日銀の手足を縛るリスクが存在する
クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミスト
- グローバルなマーケットの混乱につながった日銀の利上げ強行を止められなかったことで、岸田首相の政治的求心力はさらに弱くなり、総裁選の不出馬につながった
- 利上げに前向きな発言をしていた茂木氏、河野氏、石破氏への自民党内での総裁候補としての支持も弱くなったとみられる
- 政治のリスクを考慮すれば、日銀はもはや冒険的な利上げができる状況ではない。来年後半のグローバルな循環的な景気回復とともに、企業の支出力が回復し、企業貯蓄率がしっかり低下していることを確認してから、中立金利に向けた本格的な利上げ局面に入るだろう
--取材協力:田村康剛、酒井大輔、山中英典、日高正裕、グラス美亜、横山桃花.記事についての記者への問い合わせ先:東京 清原真里 mkiyohara2@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:森田理恵 rmorita5@bloomberg.net森田理恵、院去信太郎
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