(ブルームバーグ):米金融当局者は利下げ時期が迫っているとの認識で、おおむね一致している。しかし、利下げのペースやどの水準まで引き下げるかなどに関してコンセンサスがある訳ではない。
連邦公開市場委員会(FOMC)が来月の会合で政策金利を0.25ポイント引き下げることを、市場は完全に織り込んでいる。
米国の金融政策は重要な転換点に近づいているが、この先数カ月には緊張を伴う事態が数多く待ち受けている。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長ら当局者は現在、2つの相反するリスクの間でかじ取りを行っている。インフレの脅威一掃を図りながら、労働市場の急激な悪化を防ぐために絶妙なタイミングとスピードで利下げを行うことを目指す。
LHマイヤー/マネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミスト、デレク・タン氏は「米金融当局は最初の2回の利下げについてでなく、向こう6-9カ月の戦略全体について考えている」と指摘。「ショックが眼前にやってきた場合に自分たちがどこにいたいのかを検討している」と述べた。
このことはリスクマネジメント戦略を示唆する。不確実性が高い時期に、中央銀行が頻繁に採用するアプローチだ。2つの目標を同時に見据えながら、より大きなリスクがどちらにあるかを見極めるとも言える。もう一方への警戒感を維持したまま、そのリスクに対応することになる。
それは決して容易なことではない。FOMCはフェデラルファンド(FF)金利誘導目標のレンジを1年余りにわたって5.25-5.5%に据え置いているが、インフレが鈍化するにつれて実質金利は上昇している。雇用創出が鈍り、物価上昇ペースは減速する中、最大のリスクがどこにあるかを巡ってFOMCメンバーの意見は分かれている。
ボウマンFRB理事やアトランタ連銀のボスティック総裁は、利下げを急ぐ必要はないとの立場だ。物価安定のさらなる証拠を目にしたいとし、労働市場はなお底堅いと主張する。失業率の上昇は、これまで様子見をしていた求職者が労働市場に参入したことが一因だと指摘している。
このグループに対してパウエル議長ができるのは、7月の米消費者物価指数(CPI)を挙げて、9月に0.25ポイントの利下げをしても物価上昇が加速する可能性は低いと指摘することだ。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIは7月に前月比0.2%上昇。3カ月間の年率換算では1.6%上昇と、2021年2月以来の低水準にとどまった。
一方、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は5日、「当局は労働市場が減速しつつあることを確認した。過度に減速させて景気下降につながらないようにするのが極めて重要だ」と語った。
パウエル議長は、今後数カ月の金融政策運営を支える手段として、リスクマネジメントのアプローチを採ることを既に示唆している。インフレと雇用のいずれにも目配りすることになるが、うまくいかなかった場合により暗いシナリオとなり得るのは、歴史的に見て雇用の方だ。最近のいくつかのリセッション(景気後退)は労働市場、特に低所得者層に深刻かつ長期間に及ぶ影響を与えてきた。
米金融当局はそのことを考慮し、金利を経済にとって一定の均衡水準ないし中立水準に戻す道筋について発信するだけでなく、よりコストのかかる雇用面のリスクを相殺する道筋を伝える可能性がある。市場は既にそれに備えており、年末までに1ポイント近い利下げの可能性を織り込んでいる。
FRB調査統計局長を務め、現在はブルームバーグ・エコノミクスの米経済調査ディレクターであるデービッド・ウィルコックス氏は「現時点での重大なリスクは、労働市場の軟化が促進され、経済が不必要かつ望まれないリセッションに陥ることだ」と指摘。「最初の一手は0.5ポイント利下げが基本シナリオとなるはずだ。労働市場をこれ以上軟化させてはならない」と述べた。
原題:Fed Faces New Peril as It Navigates Both Inflation and Job Risks(抜粋)
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