(ブルームバーグ):12日の米国株市場でS&P500種株価指数はほぼ変わらず。米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、方向感に乏しい展開となった。最新の地政学的情勢を受け、リスク選好の動きも弱まった。
世界の市場にパニック売りが広がってから1週間がたったこの日、S&P500種は横ばいで終了。ウォール街でなお動揺が続く中、多くの投資家は市場の方向性や米経済の健全性を巡るシグナルが増えるのを待っており、大きな賭けに出るような動きは手控えられた。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのソリタ・マルチェリ氏は、投資家としては主要市場がどこまで動いたかを「評価する」良い機会だとみる。
「だがボラティリティーは今週戻ってくる可能性はある」とマルチェリ氏。「インフレ率が低過ぎれば、米国がリセッション(景気後退)に向かっているのではないかとの懸念が高まる可能性がある。インフレ率が高過ぎれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)が経済を守れるだけの速さで利下げできないのではないかとの懸念を助長しかねない。地政学的リスクも依然として高い」と分析した。
S&P500種は5345付近で推移。主要業種の大半は下げたが、テクノロジーとエネルギー、公益は上げた。シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は20付近で安定した動き。VIXは先週に一時急上昇した。
モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのクリス・ラーキン氏は、市場にとって重要な時期にCPIは発表されると指摘。わずか数週間に、景気は十分に減速しているのかという議論から、「ぬかるみにはまり込んでいる」のではないかとの懸念へと変化したと述べた。
ラーキン氏はまた、「投資家はCPIデータがスイートスポットに収まることを期待している。つまり、9月利下げの可能性を疑う人が誰も出てこないほど落ち着いているが、最近市場を動揺させてきたリセッション懸念を脇に追いやれるだけの高さはあるというものだ」と語った。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのジェーソン・ドラホ氏は、「経済がリセッションに向かっていないという証拠が増えたり、金融当局が必要に応じて積極的な行動を起こすとのシグナルを発するまで、神経質なセンチメントは続く可能性が高い」と分析した。
エバコアのクリシュナ・グハ氏は、市場は先週の混乱を経て、米金融当局には労働市場に再び焦点を合わせ、「ソフトランディング」を確実にするため利下げを十分前倒しする余裕が広がるのか、それともより制約を受けることになるのか確かめようと、CPIデータに注目するだろうと指摘。
その上で、「CPIが高めに出てもパニックになる必要はない」とし、「いま金融当局が最も重視しているのは労働市場に関するデータで、インフレデータが第一ということはない。もし労働関連データが今後も軟調な場合、金融当局は利下げに関して前倒しの姿勢になるだろう」と述べた。
米モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏は、景気の不透明感と企業業績予想の低調さというダブルパンチにより、株式相場の上昇は抑えられる可能性が高いとの見方を示した。
ウィルソン氏はリポートで、マクロ経済データは短期的には明確なシグナルを発しないとし、S&P500種が5000-5400ポイントのレンジで推移すると予想した。
一方、ゴールドマン・サックス・グループのスコット・ルブナー氏は、米株式市場には8月末に押し目買いの短い好機が訪れると予想。システマティックファンドからの売り圧力が和らぎ、企業の自社株買いが活発になるためだと、同氏は説明した。
「8月はこれが最後の弱気コールだ。8月としては最悪の株式需給ミスマッチは終わりつつある」とルブナー氏は12日のリポートで指摘した。
米国債は上昇。企業による社債発行もあったが、イスラエルがイランによる大規模攻撃に備えているとの報道を受けて地政学的緊張が高まる中、リスクオフのセンチメントが広がり米国債は買われた。またウクライナのゼレンスキー大統領は、同国軍が広範囲にわたるロシア領土を制圧したことを初めて公に認めた。
外国為替市場ではドルが上昇。イランがイスラエルを攻撃するとの懸念が広がり、逃避需要からドルは買われた。円はドルに対して値下がりし、1ドル=147円台前半。
米ニューヨーク連銀の調査によれば、消費者の3年先のインフレ期待は、2013年の統計開始以降で最低となった。14日発表の7月の米CPIは、総合が前月比0.2%上昇と見込まれている。
TDセキュリティーズのマーク・マコーミック氏は「われわれは、特に主要10通貨において、円の売り浴びせは買いの好機と捉えている」と指摘した。
またモルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントのリサ・シャレット氏は12日付のリポートで、「日本は特に魅力的だと考えている」とし、「徐々に円高が進むと予想しており、ヘッジなしでのポジション保有を勧める」と記した。
米商品先物取引委員会(CFTC)が公表した最新データでは、投機的トレーダーが円安方向に賭ける投資ポジションを急激に縮小した様子が明らかになった。
ニューヨーク原油相場は昨年10月以来の大幅高。7月にテヘランでイスラム組織ハマスのリーダーが暗殺されたことを受けたイランの対応が警戒されている。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は急伸し、1バレル当たり80ドル台に乗せた。イラン政府は11日、イスラエルを懲罰する決意をあらためて表明。米軍は中東で海・空軍の展開を強化した。WTI先物は200日移動平均を上回り、これがさらに買いを呼び込んだ可能性がある。
TDセキュリティーズの商品ストラテジスト、ダン・ガリ氏は「アルゴリズムを用いるトレンドフォロワーはまだ、ブレント原油を購入する手元流動性を有している。つまりイランが攻撃に出たら、こうした投資家から一気に追加の買いが入る可能性がある」と述べた。
この日の相場上昇は、資産運用各社のポジショニングに変化が起きた可能性を示唆している。先週のデータによれば、資産運用各社によるICEブレント先物の買い越しポジションは、2011年にデータ公表が始まって以来の最小だった。米国のガソリンとディーゼル油の買い越しポジションも数年ぶりの少なさだった。
トレーダーらは今週の需給リポートに注目している。石油輸出国機構(OPEC)は12日、今年と来年の世界需要予測を引き下げた。国際エネルギー機関(IEA)は13日に月間見通しを発表する。その翌日には米CPIが発表される。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物9月限は、前営業日比3.22ドル(4.2%)高い1バレル=80.06ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント10月限は2.64ドル(3.3%)上げて82.30ドルで引けた。
ニューヨーク金相場は上昇し、過去最高値に接近した。トレーダーらは最新の地政学的情勢を見極めつつ、一連の米経済統計が金利の道筋を決定付けるかどうかに注目している。
金スポット価格は一時1.6%余り上昇し、1オンス当たり2471.00ドルを付けた。市場では引き続き、先月テヘランで起きたイスラム組織ハマス指導者暗殺に対するイランの行動が警戒されている。
13日に発表される米生産者物価指数(PPI)と翌日の米CPIも、米国のインフレ動向を明確にする可能性があるとして、注目されている。
TDセキュリティーズの商品戦略責任者、バート・メレク氏は「地政学的要素と金利低下が重なり、そこに日本銀行の政策引き締めによる圧力の緩和が加わった」と金の上昇を説明した。
7月のCPIは前月比で物価上昇率の上振れを示しつつ、前年同月比では引き続き緩やかな伸びにとどまると予想されている。最近続いた物価圧力の緩和を受けて、借り入れコストを引き下げ始めながらも労働市場への目配りを強化することが可能だと、政策当局者は自信を強めた。労働市場では熱気の冷え込みが相次いで示されている。
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は10日、インフレの上振れリスクと労働市場の持続的強さが見られると述べた。連邦公開市場委員会(FOMC)の次回9月会合で利下げを支持する用意がない可能性を示唆した。借り入れコスト上昇は、利息を生まない金投資には通常マイナスに作用する。
米インフレ、小幅な加速ではFRBの利下げ阻まず-14日CPI発表
金相場は年初から20%近く上昇。利下げ期待に加えて、中央銀行による購入や中国での強い消費者需要に支えられている。中東での緊張激化も逃避先としての金の妙味を高めている。
商品先物取引委員会(CFTC)がまとめた週間データによれば、資産運用会社による金買い越し額は5週間ぶりの低水準となった。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、前営業日比30.60ドル(1.2%)高の1オンス=2504.00ドルで引けた。ニューヨーク時間午後3時現在、金スポット相場は39.08ドル(1.6%)高の2470.40ドル。
原題:Stocks Halt Rebound as Oil Hits $80 on War Angst: Markets Wrap(抜粋)
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--取材協力:John Viljoen、Matthew Burgess.
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