全国でドローンによる物資輸送の動きが加速する中、鹿児島県の奄美大島では、2024年2月から実用化がスタートした。離島の人々の暮らしを支えるドローン物流サービスの現状と課題とは。
ドローン物流サービス実用化 なぜ?奄美大島の離島で
鹿児島県奄美大島。その最南端にある瀬戸内町。町の特産品で、皇室にも献上するというパッションフルーツは、いま旬を迎えている。この自然豊かな南の島の上空を飛んでいるのは、周辺の離島に生活物資を運ぶドローン。
2024年2月から行政サービスとして実用化が始まった。瀬戸内町の鎌田愛人町長は「ドローンによって地域の利便性や街の活性化など、大いに活用されることを期待している」と語った。
加計呂麻島、与路島、請島の有人の離島3島を有する瀬戸内町。その離島への唯一の交通手段はフェリー。町営定期船「せとなみ」の昌谷将人船長は「台風シーズンだったり冬場の北西風が吹いたりするシーズンは海や気象が荒れる日が続くので(定期船が)欠航になる可能性も多い」という。離島への生活物資を運んでいるフェリーだが、高波や強風で欠航することが多く、町も頭を悩ませていた。
瀬戸内町役場企画課の登島敏文課長は「欠航問題という長年の課題であって、これを解決するとなると、最後、空飛ぶしかないかなというところがあった」。そこで目をつけたのがドローン。「ドローンを飛ばそうと思ったが、さあどうしようかというときに日本航空が海外でも物流ドローンとの提携をしている記事を見て、日本航空にお願いした」。
2023年11月、瀬戸内町と日本航空の共同出資によって設立されたのが、「奄美アイランドドローン」。使用する機体はヤマハ発動機のヘリコプター型ドローン「FAZER R G2」。
奄美アイランドドローン 岡野雅樹さん(日本航空):
バッテリードローンだと航続距離が短かったり、搭載可能重量が限られるということがある。15km、あるいは20km先の島まで、重さ15kg程度の荷物を運ぶ必要があったので、エンジンを積んだ大型のドローンを導入するに至った。
このドローンは、航続距離は最長90㎞で重さ15㎏までの荷物を運ぶことができる。現在、与路島、請島の二つの離島に学校給食の食材や新聞などの生活物資の輸送を行っている。木曜日と金曜日に計4便、隔週で輸送を行っており、この日も与路島に向けてドローンが飛び立とうとしていた。地上20mほどの高さにまで上昇したところで、
岡野さんの「では、操縦権渡します」という声が聞こえる。
奄美アイランドドローン 岡野雅樹さん(日本航空):
ここから操作は東京の操縦席で行うものなので、私は操作を一切行わない。
離島の暮らし支えるドローン 1300㎞離れた東京で操縦
約1300km離れた東京でどのように操縦を行うのだろうか。東京・品川にある日本航空本社。世界中を飛行する航空機の運行管理を行うオペレーション本部。その一角に奄美アイランドドローンの基地局がある。
奄美アイランドドローン 伊藤栞太さん(日本航空):
フライトコントロールチェックコンプリート。今、離陸して2~3km地点を飛行中です。
奄美大島から約1300km離れたこの基地局でドローンを操縦している。現地では目視による飛行が困難なためこの基地局でGPSによる位置の把握と、機体カメラによる周囲の監視を行いながら飛行している。実証実験では、風速10m、小雨程度の環境下では問題なく飛行できたという。
そして、ドローンは奄美大島本島から約20㎞離れた与路島に30分で到着。
奄美アイランドドローン 伊藤栞太さん(日本航空):
切り離しチェック。では切り離します。3、2、1…。
東京から遠隔で荷物を切り離し、ドローンは再び本島に戻っていく。荷物を受け取った与路集落の信島豊武区長は「今日は学校給食の食材と、集落の新聞が運ばれてきました」といって、島民に新聞を渡す。与路島は人口を70人ほどの島。新聞の配達も島民が行う。
小学校と中学校が一緒になった島唯一の学校「瀬戸内町立与路小中学校」。こちらに給食食材を届ける信島区長。これまで、船の欠航によって、給食の食材が届かない場合、学校でストックしていた食材で何とかしのいでいたが、ドローンによる輸送が始まってからはその心配がなくなった。
「美味しい給食いただきます」の声とともに一斉に食べ始める生徒たち。「毎回、毎回給食が美味しい」「ご飯よりパンが好きだからパンの日が楽しみ」などという。離島に暮らす人々は、この大型ドローンの輸送に大きな期待を寄せている。
島の教員は「アイスを食べたいと思ったときに去年まで、島に(売っている)店があったので食べることができたが、今年から(店で)アイスが販売されないということで、悲しい気持ちになっていた。アイスがもし届いたら…と思っている」。生徒は、「新しい本ですね。最近の本を読めたらなと思う」という。ほかの与路島民は「医薬品関係は特になかなか入手ができないのと常備できないので、何かあったときにすぐ運んでもらえるようなことがあれば助かるかな」と語る。しかし、このドローン事業に期待されているのは、日々の生活物資の輸送だけではない。
期待されるドローン事業の拡大 物流サービス以外でも…
瀬戸内町役場 企画課 課長(奄美アイランドドローン代表)登島敏文さん:
災害時は救援物資の搬送が主になる。小型のドローンを使ってどういった災害が起きてるかを把握する。災害のときにすぐに動けるように、平時から訓練をしていく。
現在瀬戸内町では、大型ドローン操縦の免許を取得する人材の育成に力を入れているといいう。
奄美アイランドドローン 岡野雅樹さん(日本航空):
将来的には瀬戸内町の方のみで、奄美アイランドドローンという会社を運営できるような体制を構築するため、今日本航空としてお手伝いさせてもらっている。
日本航空はドローン事業の拡大に向けた取り組みを進めている。7月にはKDDIとの実証実験で、1人で3機のドローンを遠隔操縦し、それぞれの目的地に荷物を配送することに成功した。
日本航空 エアモビリティ創造部 加納拓貴グループ長:
1人が1機を操縦しているということでは、ビジネスは成り立たない。奄美の事例というのは、行政サービスに近いもの、いわゆるB to G(Business to Government)のサービスになっている。まずはこれをB to Gに加えて、B to B (Business to Business)、一般企業からドローンの運航を受注する、さらにはその先、将来はB to C (Business to Consumer)一般のお客様にも使ってもらえるようなサービスにしていきたい。瀬戸内町の皆様としっかりモデルを確立した上で、全国に展開していきたいと考えている。
ドローンによる物資輸送は、瀬戸内町から請島・与路島の間で運行されている。操縦は1300km離れた東京で行われている。
――ドローンの可能性、どう思うか。
東短リサーチ 社長 加藤出氏:
過疎地域が全国的に増えていくのは間違いない。一方で流通関係を担う労働者不足という問題も同時にある。こういう形で過疎地域に物を届けられる状況は、災害時対策といった面でも非常に必要だ。
――B to Gという言葉があったが、公的サービスから始めて、需要を細かく探ったり、マッチングができるようになってくると、B to Cの需要が出てくる可能性もあるか。
東短リサーチ 社長 加藤出氏:
少々高くても、早く届けて欲しいという需要は結構あるだろうから、そこをうまく掘り出せるといい。
――そういう意味では、これから先、色々な規制緩和がどれくらい進むかということと関連した話になってくるかもしれない。
(BS-TBS『Bizスクエア』 8月3日放送より)
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