(ブルームバーグ):日本銀行は31日の金融政策決定会合で追加利上げと国債買い入れの減額を発表したものの、長期的な政策運営方針が明確化されなかったことで、東京外国為替市場の円相場は大きく揺れた。アナリストやストラテジストによると、今後の焦点は米国の金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の動向に移ったという。
市場関係者の見解
ロンバード・オディエのシニアマクロストラテジスト、ホーミン・リー氏
- 市場参加者は日銀の慎重な国債買い入れの減額に少し安堵(あんど)しているようで、日銀のバランスシートの着実な縮小は当面日本の債券市場に大きな混乱をもたらすことはないだろう
- しかし、今年後半に国内外からの圧力が強まれば、ペースはいつでも微調整可能であることを強調しておきたい
- 日銀後は、米連邦準備制度理事会(FRB)の会合と2日に発表が予定されている米雇用統計が注目されることになる
楽天投信投資顧問第二運用部の平川康彦部長
- 今月に入ってから情報が漏れていたため、利上げは既に織り込み済みだった。政治日程を考えると、9月の利上げは難しかった
- 植田総裁が会見で年内の利上げを見送ることを示唆すれば、円安が再開し、恐らく1ドル=155円から160円のレンジまで円安が進むだろう。もし0.5%への追加利上げの可能性を示唆すれば、人々はより神経質になる
ATFXグローバル・マーケッツのニック・トウィデール氏
- 日銀の国債買い入れ縮小計画が市場を失望させたことで、投資家は円を売っている。減額幅は予想を大幅に下回ったため、円は大きな打撃を受けている
- 動きの速い市場でギャッピングが見られるが、一晩のポジショニングを考えると、この先数時間でさらに増える可能性がある
RBCキャピタル・マーケッツのアジアFX戦略責任者、アルビン・T・タン氏
- 日銀が発表した債券買い入れの減額は、会合前に市場が予想していたものには届かなかった
- 日銀は四半期ごとに4000億円の買い入れを減らすが、市場は8月から毎月1兆円の買い入れを予想していた
- 日銀の利上げでタカ派的な展開だが、量的引き締めが予想より少なかったことである程度緩和された
- 日銀の動きは円にとって強気ではない、要するにタカ派的な市場予想を大きく上回るものではなかった。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのAPACエコノミスト、クリシュナ・ビマヴァラプ氏
- 日銀の利上げと国債買い入れの減額を受けて、正常化への大きな一歩を踏み出し、日出(い)づる国の新たな夜明けを告げた
- 日銀決定会合は政策金利を引き上げ、国債の買い入れを縮小する計画を打ち出しただけでなく、政策の方向性にかなりの明確さと自信を得たことで、市場に本当の意味でのガイダンスを与えた
- 政策金利が来年1%に達すると予想しており、消費と経済の成長見通しの改善を期待している
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジスト
- 日銀が追加利上げに踏み切ったことで、早ければ年内に追加利上げを検討する可能性は否定できない
- われわれが思っていた以上に日銀は景気が腰折れしたり、デフレに戻ったりすることがないことに自信があるのだろう
- 展望リポートで24年度と25年度は上振れリスクの方が大きいと指摘していることが利上げの背景だろう
- 国債買い入れ減額計画は毎四半期4000億円ずつ減額で2025年度末に3兆円とコンセンサス通りだった
- 政府が円安を懸念しており、国民が物価高に不満を募らせていることも背景にあったのだろう
大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミスト
- 日銀の利上げが1回で終わるなら金融政策の正常化の方向性を示したことにはならない
- 事前に「検討」報道があり、市場も落ち着いた受け止め。日経平均株価が1000円安のような状況が続いていたら難しかった
- ばたばたと決まった印象を与えているが、日銀は短観と支店長会議の報告時から利上げを準備。そこに政治サイドからフォローの風が吹いた
- 日銀は正常化を進めたいが、実際にやれるかどうかは別。植田総裁は経済・物価見通しに沿って進めば緩和度合いを調整すると繰り返すだろう
- 次は12月に利上げとの予想はしやすいが、米国が大統領選も含めどうなっているか誰も予想できず、日銀の思い通りにいかないことは過去の歴史が証明
東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジスト
- 公表文では見通しに沿ったら利上げを続けると言っており、タカ派的だが、その割には債券市場は落ち着いている
- 今回は3月のマイナス金利政策の解除から4カ月強だが、円安対応や利上げを続けると緩和の度合いが弱まるので、次の利上げは4カ月というよりは半年に1回のペースになるとみている
- 早ければ12月、来年1月くらいに25bpの利上げを織り込むとみている
- ただ、その先の2年後など中期のところの織り込みが弱く、5年債利回りなど中期債には一定の上昇圧力が残る
- 一方、長めのゾーン債券は海外金利の低下や超長期債の減額が見送りとなったこともあってそれほど上昇しないとみている
サクソ・キャピタル・マーケッツの為替戦略責任者、チャル・チャナナ氏
- 日銀がいかに低い基準を設定したかを考えれば、これは日銀の最もタカ派的な動きの一つに違いない
- FRBが9月利下げの明確な示唆を控えれば、円への圧力は続くだろう。日本株は慎重なスタンスが正当化され、銀行は日銀の国債買い入れ削減幅の縮小に失望するだろう。しかし、コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革や地政学的な動きなど、日本の構造的なテーマは引き続き興味深い
マニュライフ・インベストメント・マネジメントの押田俊輔クレジット調査部長
- 物価がまだ上がっているため、2024年度内にもう1回くらい利上げがあってもおかしくない
- 金利先高観は少し残り、社債スプレッドには緩やかな拡大圧力がかかろう
- 金利上昇で国債の方がいいという話になると、社債への投資意欲が減り、スプレッドの拡大要因になり得る
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジスト
- 4月の展望リポートにあった「当面、緩和的な金融環境が継続する」という文言が今回は取り外されたことで、日銀はハト派から脱却した。将来的にもう一段利上げが進んでいく状況になりつつある
- 会合結果は市場コンセンサスに沿った形で、市場は大きく混乱していない
- 過去のデフレと超低金利の世界から脱し、金融政策が正常に向かっていること自体は日本の株式市場にとってプラス
--取材協力:Masaki Kondo、Ruth Carson、David Finnerty、佐野日出之、我妻綾、横山桃花、グラス美亜、Ayai Tomisawa、酒井大輔、日高正裕、山中英典、船曳三郎、清原真里.
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