パリオリンピックが始まった。日本勢の活躍を大いに期待したい。
できれば現地へ声援を送りに行きたいところだが、あまりの円安ユーロ高の現状にちゅうちょしてしまう人もいるだろう。
前回パリ大会の日本 唯一の銅メダルも選手は“謝罪”
パリでのオリンピック開催は2回目。前回は実に100年前の1924年(大正13年)だった。このとき日本勢は唯一となる銅メダルを獲得している。
まだラジオ放送もなかったが、さぞや新聞紙面で盛り上がったはず…と思いきや、銅メダル(3位)の扱いは社会面左下に2段見出し。隣の「腰巻きを盗む賊、押し入れの中に百数十枚」という中野署の事件より少し目立つくらいだ。
陸上や水泳などに比べてレスリングという競技になじみが薄かったこともあったにせよ、わざわざ現地特派員が出した記事にしてはあまりにも小さい。
唯一の銅メダルも扱い小さめ 『東京朝日新聞1924年7月16日』 この記事の写真は4枚しかも当時の報道では、メダル獲得の大奮闘をしたはずの内藤克俊選手が試合後の控室で汗だくになりながら「期待に沿わないで残念でした。近く米国へ帰ります」と語ったという。
レスリングに対してはオリンピック競技に入っていなかった柔道界からの視線があったとされる。主にアメリカで活動していた内藤選手は準決勝で敗れて金メダルを取れなかったことで、日本国内に向け“謝罪”する事態になったのである。
このような風潮が100年後の今も脈々と続いている気がするのは私だけだろうか。
100年前の大問題も円安 巨額介入も歯止めかからず資金不足
その100年前のパリオリンピックの年=1924年、日本国内で大きな問題となっていたのが実はことしと同じ「円安」である。
前回パリオリンピックの1924年も急激な円安政府(清浦内閣)は年初に1ドル=2.1円死守の方針を決め、無制限の円買い・ドル売り介入で支え続けた。しかし巨額の為替介入にもかかわらず、3月には1ドル=2.4円まで急落するのである。
こうなると当時も今も対策会議だ。政府は1924年3月14日、大蔵省と日銀の幹部が円安問題で協議を開いた。協議は午後5時から午後11時半まで及んだ。
しかし介入のための資金(外貨準備に相当)に余裕がなくなったことから、結局、市場介入による為替相場の維持を断念した。
介入がなくなった円相場は変動相場で“つるべ落とし”のように下落する。
円安の要因は前年に起きた関東大震災で生じた輸出不振と復興資材の輸入急増による大幅な貿易赤字で、さらに金本位制復帰への遅れもあったとされる。
しかしそれだけではなかった。
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円安に目を付け投機筋が登場 大蔵大臣が元祖“口先介入”で対抗円安に目を付け投機筋が登場 大蔵大臣が元祖“口先介入”で対抗
この変動相場下での円安に目を付け為替益を狙う投機筋が登場し、深く関係していることが浮かび上がってくるのである。
ニューヨーク筋、上海筋と呼ばれる短期の資金移動だった。
ポンドやマルクといった主要通貨が安定する中で、ボラティリティー(変動幅)が大きく狙えるドル・円に資金が集まった。投機が実需の何倍にも膨らんだとみられ、震災復興の最中に付け込まれた形だ。
これに対して先の“対策会議”で勝田大蔵大臣は「不自然な暴落には政府は日銀などとともに対応することが必要不可欠で、絶えずこの点を警戒させている」「昨今の為替相場下落には投機・思惑が行われているから、安定させるために必要に応じて対応する」と発言した(『東京朝日新聞1924年3月16日』、現代語で要約)。
「為替思惑の取り締まり」と大蔵大臣が“口先介入” 『東京朝日新聞1924年3月16日』今の財務大臣や財務官の発言とあまりにも似たセリフではないか。勝田大蔵大臣によるいわば元祖“口先介入”だ。
新聞見出しも当然「為替思惑の取り締まり」と来る。大蔵省は悪質な投機・思惑の当事者には資金凍結も視野に入れていると説明した。
直後の円相場は大蔵省声明で「果然為替反発」と記事にある。
介入資金が限られてくる中で、円安が震災対策の輸入品の値上がりなど復興の妨げになるだけでなく、物価全般の上昇が懸念されていた。
投機筋に対抗する口先介入は100年前にも行われていたのである。
スポーツでは前回1924年パリ大会で銅メダル1個だった日本勢が、今回の2024年大会で大きな活躍を見せている。100年前の日本人が夢見た光景は実現したと言える。
一方で国際金融の舞台では100年後の今も、貿易収支が赤字基調の中で円安局面が続き、政府が介入などの手段で持ちこたえながらマーケットと向き合う構図が再現されているようにも見える。
パリオリンピック開催中の今月30日と31日に日銀の金融政策決定会合が開かれる。円安局面を打開するカギとなる金利引き上げの方針が出るか注目したい。
(テレビ朝日デジタル解説委員 北本則雄)
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