(ブルームバーグ):トランプ前米大統領は26日夜、「終身大統領」になりたいと再びぶち上げた。同氏が好んで展開する持論の1つだ。

トランプ氏はフロリダ州で開催された宗教団体関連のイベントで「キリスト教徒の皆さん、今回だけ投票してほしい。もう投票する必要はなくなる」と呼びかけ、こう続けた。「ぜひ投票を。4年後にはその必要はなくなる。われわれがうまく修正し、あなた方はもう投票しなくて済むようになる」

トランプ陣営は今回の発言について、王座や王権とは全く関係ないと主張。スポークスマンのスティーブン・チョン氏は、トランプ氏は 「多大な分断をもたらし、暗殺未遂事件にまで発展した敵対的な政治環境とは対照的に、この国を団結させ、すべての米国人に繁栄をもたらすことについて語っていた」と述べた。

その解釈にはかなり無理がある。共和党が先頃ミルウォーキーで開催した全国大会で結束に注力すると述べたことを踏まえてもだ。トム・コットン上院議員(共和、アーカンソー)の見解は異なる。同氏は28日のトーク番組で、トランプ氏は「明らかに冗談を言っている」と述べた。トランプ氏の批判派から擁護派に転じたニューハンプシャー州のクリス・スヌヌ知事(共和)は、発言は大げさな表現に過ぎず、「典型的なトランピズム」だと指摘。選挙の不正操作を意図した発言ではなく、国を立て直すと言いたかっただけだと続けた。リンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ)は、トランプ氏が伝えたかったのは「米国という船を正し、次の世代に引き継ぐ」という点だけだと主張した。

そうかもしれない。だが、トランプ氏が返り咲きを果たした場合、米国という船を正すのにどれだけの時間を費やしたいと考えているのか、いつ次世代に引き継ぐ準備ができるのかは見えない。トランプ氏がここ数年、2期務めた後も政権を握りたいと繰り返し発言していることを認識するのが賢明な道筋だろう。11月の選挙で共和党が上下両院議会を掌握し、最終的に少なくとも38州の支持を得れば、憲法をいじり、大統領の任期を2期に制限している憲法修正第22条を廃止することもあり得る。

トランプ氏は決して権力の放棄を望んでいない。そもそも、トランプ氏とその側近らは、2020年の大統領選結果に異議を唱え数十件にわたる訴訟を起こしたが、失敗に終わった。彼らは選挙人の集計結果の正当性を損なうため偽の選挙人名簿を作成し、トランプ氏は選挙結果について争うよう州当局者に個人的に圧力をかけた。2021年1月6日には連邦議会議事堂襲撃をあおり、一段と露骨かつ大胆に選挙結果を覆そうとした。その後も選挙結果は自身に不利になるように操作されたとのうそをつき続けている。過去には、ホワイトハウスに8年いても満足できないかもしれないとも話している。

トランプ氏は2018年、中国の習近平国家主席について「今や終身の国家主席となった。終身国家主席だ」とし、「彼にはこれができた。素晴らしいことだ。われわれもいつかやってみる必要があるかもしれない」と発言。2019年には「少なくとも10年か14年間」大統領であり続けるという夢も口にした。同じ年にツイッター(現X)で、自身の支持者らが2期よりも「長くとどまることを要求するだろう」と投稿。2020年の選挙戦の際にも、3期目のシナリオに触れていた。

共和党の元ストラテジストで、過去の大統領選で共和党から立候補したパトリック・ブキャナン氏らが創刊したアメリカン・コンサバティブ誌は、「共和党のベルトウェイ保守支配層への挑戦」を提唱。同誌はヘリテージ財団が主導する「プロジェクト2025」の諮問委員会メンバーでもある。プロジェクト2025はトランプ氏が復権した場合の政策構想を提示するもので、同氏のアドバイザーや支持者らが立案に関わっている。

アメリカン・コンサバティブは今年に入り、憲法修正第22条は「2期連続で務めない大統領、ひいては民主主義そのものを恣意(しい)的に制約するものだ」と主張する記事を掲載し、広く拡散した。とりわけトランプ氏支持者らは任期制限で不利な影響を受けるとした上で、「トランプ2028!」を提唱した。

同記事が掲載された数カ月後、トランプ氏は全米ライフル協会(NRA)のイベントで、いつまで大統領を続けるべきかとの質問を投げかけた。「FDR(ルーズベルト元大統領)は4期、ほぼ16年務めた。われわれは3期と考えられるのだろうか、それとも2期か」とトランプ氏が話すと、聴衆からは「3期」との声が上がった。

トランプ氏は憲法を尊重すると示唆している。今年行った米誌タイムとの長いインタビューでは、憲法修正第22条を覆すつもりはないと語った。「異議を唱えることには賛同しない。私はそんなことはしない」とし、「私は4年務め、素晴らしい仕事をするつもりだ」と語った。

では、タイム誌のインタビューで語ったトランプ氏と、大統領在任中に度々憲法を覆そうとしたトランプ氏のどちらを信じればいいのだろうか。筆者は後者だと考える。トランプ氏は根本的に無法者であり、権威主義者なのだ。

もっとも、米議会は11月以降も上院と下院で多数派政党が別のままかもしれない。そもそも、憲法修正第22条の廃止を強行するために数十州の支持を取り付けるのも困難な仕事だろう。とはいえ、トランプ氏は数十年の月日をかけて、ルールや法律を回避する方法を見いだしてきた。見込み薄の状況であっても、トランプ氏が取り組みの手を緩めることはないだろう。

トランプ氏はかねて任期を超えてホワイトハウスにとどまることを望むと発言しており、26日夜にも再び口にした。われわれはトランプ氏の言葉は本気だと受け止めるべきだ。玉座に就く機会があれば、トランプ氏は逃さず行動するだろう。

(ティモシー・オブライエン氏はブルームバーグ・オピニオンのシニアエグゼクティブエディター。米紙ニューヨーク・タイムズの元編集者・記者で、著書に「TrumpNation: The Art of Being the Donald」。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Believe Trump When He Says He Won’t Give Up Power: Tim O’Brien(抜粋)

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