地元で愛される昔ながらの食堂にも物価高の波が押し寄せています。「48年のお店の歴史のなかでも前代未聞だ」と店主は頭を抱えています。

■家族3人で切り盛り「やしろ食堂」

 東京・荻窪にある、創業48年の小さな定食屋さん「やしろ食堂」。

 客の半数以上が常連で、家族3人で切り盛りしています。

 店主の内山泰光さん(76)のトレードマークは毎日着ているという赤いポロシャツ。

泰光さん
「日本人は還暦超えたら赤に決まっているんだよ」
「(Q.還暦を過ぎてから赤い服を着始めた?)いや、そういうわけじゃないんだけど」

 調理担当の妻・和子さん(75)はテキパキと店内を動き回ります。

 泰光さんと和子さん、今年、結婚50年目を迎えました。

和子さん
「(Q.夫婦仲は良い?)まぁね、文句ばっかり言うけどね。言いすぎるのは分かっているけど、言わないわけにはいかない」

 長男の雅史さん(47)は高級デパートのレストランで修行を積んだのち、およそ24年前に跡継ぎとして店を守っていくことを決めました。そんな「やしろ食堂」が地域から愛され続けている理由とは…。

■親子食堂の魅力

 開店2時間前となった午前9時、3人しかいないため、準備は大忙しです。

和子さん
「(Q.味付けはオリジナル?)うん、まぁ適当、全部適当。隠し味なんて何もない、普通の家庭の味」

泰光さん
「(客も)『毎日味が違うから来られるんだよ』『一緒だと飽きるよ』って」

 付け合わせは日によって変わり、この日は「ナスのみそ炒め」と「もやしのカレー粉炒め」。味付けは創業当時から変わっていないといいます。

 一方、泰光さんが店先の看板に書き始めたのは…。

泰光さん
「“暑い日はこれかな”おろしハンバーグ」

 およそ24年間、日替わりメニューに毎日添えられる一言はいつしか店の名物に…。

泰光さん
「きょう暑いじゃん。理由なんてないよ。困ったら“夢のイスカンダル”とか。知らない?宇宙戦艦ヤマト」
「(Q.見た人は何のことか分からない)まぁ分かる人には分かるでいいんだよ」

 午前11時に開店、すぐさま店内は常連客でにぎわいます。早速、看板を見た客からおろしハンバーグの注文が…。

泰光さん
「効果あった」
「(Q.やっぱりうれしい?)いまさら、あれじゃない」

 メニューは定食・単品を合わせておよそ50種類。中でも人気なのは、「麻婆メンチ定食(900円)」。揚げたてサクサクのメンチカツに、トロットロのピリ辛マーボー餡(あん)がかかった店オリジナルのメニューです。

 週3日通っているという常連客もお気に入り。

週に3日通う常連客
「麻婆メンチ定食1択です。(店員さんも)俺らが来たら分かってる」

泰光さん
「一応聞くけど、もう用意してるよ」

週に3日通う常連客
「麻婆メンチの“ま”くらいでOKって言いますもんね」

 客との距離の近さも魅力の1つ。常連客であれば、好みも把握しています。

8年以上通う常連客
「俺がナス好きなの知ってるから、ナス持ってきてくれた」

和子さん
「だいたい嫌いなものも分かるから、出さないようにしてあげたり」

■今年3回値上げも客足絶えず

 今から55年前、1969年に新潟から上京した泰光さんは当時、新高円寺にあった「やしろ食堂」に就職。

 そこで和子さんと出会い、1974年に結婚。2年後、のれん分けをしてもらい、銀行から800万円を借りて荻窪に「やしろ食堂」を開店しました。

泰光さん
「なんだかんだで(約)50年」

和子さん
「苦労ばっかり。なんの楽もない。借金ばっかり。借金が絆。まだ借金は続いてる。助け合いの精神でね」

 2000年には、人件費削減のため家族3人で経営することに。しかし、今年さらなる危機が訪れているといいます。

泰光さん
「また野菜が(価格が)上がってきた。鶏肉も上がってきてるんだよな」

雅史さん
「全部だって、全部上がるって」

和子さん
「すっごい高い。だから貧乏食堂困ってる」

 相次ぐ食材の高騰…。やしろ食堂でも苦渋の決断ながら、今年すでに3回、値上げを行ってきました。

泰光さん
「正月明けと4月ごろと5月の連休で値上げした。いまだかつてないよ。今まで何年かに1回だったのが半年で3回。その都度20円くらいずつ(値上げ)。本音としたら上げたくないよ。お客さんだって嫌でしょうよ」

 それでも変わらず通い続けている多くの常連客。彼らが「やしろ食堂」に惹かれる理由とは…。

8年以上通う常連客
「アットホーム。フレンドリーに接して頂けるので、そこが一番いい」

週に3日通う常連客
(Q.いきつけになった理由は?)いや、もうおいしさですね。おいしさと人柄の良さ」

泰光さん
「まいったな。愛してもらってるよ」

 地元の住民にとって欠かせない存在となっている「やしろ食堂」。これからも、家族3人で守り続けていきたいと話します。

和子さん
「みんなが生きていく場所だよね。80歳までは頑張ろうかなと思っている。あと5年って思っているけど、雅史君(長男)が『もう辞めたら?』って言うかも」

雅史さん
「余裕がないです」

(「グッド!モーニング」2024年7月27日放送分より)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。