ダウ最高値更新に、突然の円高への巻き戻しなど、金融市場で様々な『トランプ・トレード』が走り出しました。
銃撃事件を機にトランプ氏が再び大統領に就任する可能性が高くなったと見た、「先取り合戦」が早くも活発化しています。
トランプ政権なら、やっぱり株高?
「トランプ政権再び」と聞けば、市場関係者の誰しもが、まず、前回の株高、「トランプ・ラリー」を思い浮かべることでしょう。
実業家のトランプ氏が株式市場フレンドリーなのは皆が知るところで、景気刺激策に大型減税継続によって、株高というシナリオです。
ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は、折からの9月利下げ期待もあって、7月17日には初めて4万1000ドル台に乗せ、3日連続で過去最高を更新しました。
トランプ氏は景気優先の立場から、もちろん低金利志向です。
現在、5%を超える高い政策金利の利下げを強く望んでいるはずです。
ところが、16日に配信されたブルームバーグ通信とのインタビューでは、11月の大統領選挙前の利下げ決定について「やってはいけないと分かっていることだ」と、FRBのパウエル議長をけん制しました。
選挙前の利下げは現職のバイデン大統領に有利に働く可能性があるからで、「利下げは俺が大統領になってからやれ」というわけです。
こうした矛盾をはらんだ言動が、いかにも「トランプ流」ということでしょうか。
トランプ発言で急速に円高に
同じブルームバーグ通信とのインタビューで、トランプ氏は為替について、「対ドルで円安や人民元安が甚だしい」、米国輸出企業にとって「すさまじい負担だ」などと、ドル高是正の意向を表明しました。
これを受けて外国為替市場では1ドル=155円台へと一気に2円以上円高が進む場面がありました。
何兆円もの市場介入よりトランプ氏のひとことの方が効果絶大です。
トランプ氏が、「貿易赤字は悪」という伝統的な思考の下、輸出企業支援のためドル安志向であることが改めて確認された形です。
矛盾もはらむ、トランプ氏の「望み」
もっともトランプ氏が望む「株高、金利安、ドル安」が、今の環境ですんなり実現できるかというと、話は違ってきます。
景気の刺激と大型減税によって、「株高」が実現したとしても、その際は、財政支出の膨張によってインフレが進行し、財政赤字も拡大するでしょうから、金利はむしろ上昇するでしょう。
その場合は、ドル高が進むことなると見る専門家の方が多いようです。
もちろん、アメリカの景気が落ちてくれば、金利も下がりドル安に転じるでしょうが、その時は、株価が下落するのが普通です。
その意味で、今起きている「トランプ・トレード」は、結構、矛盾をはらんでいるように思います。
8年前と全く異なる環境
人はどうしても、過去の経験や既視感で将来を見通しがちですが、コロナ禍もウクライナ戦争もまだ起きていなかった2016年と、現在の2024年の世界は大きく違います。
前回は、インフレを全くと言っていいほど心配しなくて良かった、世界的な「ディスインフレ(低インフレ)時代」でしたし、トランプ大統領在任中の2020年は、コロナ禍であらゆる需要が「消失」してしまい、財政、金融の大盤振る舞いの副作用を考える必要などありませんでした。
今はその逆の環境で、前提条件がかなり異なっています。
通商政策では「トランプ流」がダイレクトに
微妙な対応が迫られるマクロ経済政策に対して、通商政策では、トランプ氏の主張が、よりダイレクトに現出しそうです。
共和党大会で採択された政策綱領には、輸入品への一律完全導入や、中国に対する最恵国待遇取り消しも明記しました。
実現すれば、日本製の自動車から中国製のサンダルまで輸入品の価格はすべて上がるわけで、こちらもアメリカのインフレをより進行させることになるでしょう。
トランプ氏の最もこだわりの強い移民制限政策も、国内の人手不足を助長し、賃金上昇を加速させる可能性が指摘されています。
注目される半導体供給網への影響
「台湾防衛」にあからさまに消極的で、半導体産業に対してもアメリカ第一主義を優先させる姿勢も気がかりです。
台湾、韓国、日本などとの西側の半導体サプライチェーンを弱めてしまえば、逆に、中国に対する競争力優位を維持するという大きな目標を損いかねません。
半導体関連株はこれまでの株高の主役だっただけに、トランプ氏の直情的な言動が、お望みの「株高」の妨げになるかもしれません。
規制緩和への期待から、ビットコインまで急騰するほど、様々な思惑で、すでに走り出した「トランプ・トレード」。
前回とは異なる環境で、矛盾した「期待」も数ある中、何が正しいかを見極めるまでには、かなりのアップダウンがありそうです
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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