愛知県に、建坪わずか9坪ながら、料理好きの夫妻が「大人数をもてなす」ために建てた家がある。最大7人もの人数が、大きなテーブルで一緒に料理を楽しめる空間には、様々な驚きの工夫が詰まっている。
住人(アルジ)は、料理が大好きな夫妻。両隣を住宅に挟まれた2人の家は、細くてシンプルな外観で、建坪はわずか9坪しかない。9坪とは駐車場でいうと1.5台分の狭さだが、実はこの土地は元々、夫の実家の駐車場だったスペースだという。
駐車場に建てた家のメインスペースは、2階のリビングダイニングキッチン。ここも、やはりコンパクトだ。しかし、巨大なダイニングテーブルが家の幅の半分以上を占拠している。その大きさは奥行き1.2メートル、横幅3.6メートル。しかも夫妻2人暮らしにも関わらず、椅子が5脚もある。さらに、椅子と同じ高さの小上がりを合わせると全部で7席もあるが、これは一体なぜなのか…?
以前は名古屋市内の団地に住んでいた住人(アルジ)夫妻。共通の趣味が料理で、月に1、2回、自宅で友人に手料理を振る舞っていた。しかし団地は狭く、最大2人までしか招くことができなかった。家にもっと大人数を呼べたら…そんな思いを持っていたところ、夫の実家を二世帯住宅に建て替える計画が持ち上がる。しかし、二世帯住宅にするとキッチンを巡って起こる「ある問題」が想定された。夫の母も料理好きなため、もし同居すると夫と妻と姑の3人で1日3回の食事当番の取り合いになり、自分たちが料理をする機会が激減する恐れがあったのだ。とはいえ、高齢になった両親の近くに暮らしたいとの思いもあり、目をつけたのが実家の駐車場だった。
こうして狭小地に家を建てることを決意したものの、基礎工事でそのサイズ感を実際に目の当たりにしたとき、夫は「弁当箱みたい!」と衝撃を受けたとか。だが最終的に「お弁当と一緒で、蓋を開けたら素晴らしい世界が広がった」と満足する家が完成した。
家の顔とも言えるのは、やはりオーダーメイドの巨大なダイニングテーブル。天板は寿司店のカウンターにも使われる耐久性と強度に優れた高級木材・ホワイトアッシュを使用。部屋の中央に置くと人が通れないため、窓側に固定した。だが壁に向かって座ると閉塞感が出てしまうため、大きな窓を設置。隣が実家だからこそ、視線を気にすることなく大きな開口部を実現できたという。あわせて実家の壁の色を明るい色に変え、反射した光で部屋が明るくなるようにしている。
さらに、このテーブルには、来客のためのある工夫がされている。それは、裏面の外縁にレールを付けて、カーテンを引けるようにしていること。寒い季節には中にヒーターを点けてカーテンの中に足元を入れれば、温かい「こたつ」のようになる。すべてが「おもてなし」のために存在しているのだ。
キッチンは、妻たっての希望で手入れのしやすいステンレス製、しかも業務用に。使い勝手を考え、調理器具は大きな可動式のワゴンに収納している。ワゴンごと引き出すことができ、中身が一目瞭然。出し入れもしやすく、面倒なキッチン下の掃除が楽にできるというメリットも。さらにワゴンを引き出した奥、フレームと壁との隙間は、鍋の蓋をひっかけて収納する場所として活用している。これも可動式のワゴンならでは。
キッチンの隣にある4帖の少し高さのある小上がりは、招いた友人のウェイティングスペース。キッチンと高さを揃えたので、調理スペースとしても活用できる。また、小上がりの下も全てワゴン収納に。一番手前のワゴンにはよく使う調味料がぎっしりと入っていて、引き出して自分の使いやすい位置に移動できる。その隣のワゴンは天板付きで、出来上がった料理を乗せて配膳に利用できるようになっている。
店を開いたら、と人に勧められても、何よりも「楽しむ」ためには、店にしないほうがいい、と夫は言い切る。いろんな人が集い、集った上で、共通の料理を通して新たな輪が広がっていく。そんな好循環を期待している。
夫妻2人でキッチンに立つ、その時間のために建てた家。妻は「小さいおうちだとは思いますが、私達が毎日工夫して住みやすいように変えていくのはすごく楽しい」と語る。夫も「このうちは狭いんじゃなくて、深いなあって。住めば住むほど味がある」とまだまだ楽しみは尽きない。
実家の駐車場に建てた建坪わずか9坪の家には、大人数を呼べる空間作り、そして大量の料理が効率よく作れるキッチンと、まさにお弁当箱のように彩り豊かな工夫が詰まっていた。(MBS「住人十色」2024年4月13日放送より TVerでも放送後1週間配信中)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。