人事領域のサポートをしていると「離職率を下げたい」というご相談を多くいただく。人手不足時代と言われている現代においては会社の目標の一つとして離職率ゼロを掲げる企業も少なくない。

 このご相談をされた時に必ずさせていただくのが「どんな理由での退職者を減らしたいのか」という質問だ。

 たいてい初めは「全員退職してほしくない」と返答することが多い。しかし、しばらく考えると「人間関係で辞めていく人を減らしたい」「適正な評価が受けられずに辞める人を減らしたい」など、企業の抱える課題が顕在化してくる。

 弊社のクライアント企業がこの問いをきっかけに、「離職率ゼロ」から「エンゲージメント(会社への貢献・愛着心)指数アップ」を掲げて取り組んだ結果、2年間で離職率を25%削減し、社員が主体的に意見したり、行動したりするようになった。

 少し背景をお伝えすると、離職率ゼロを掲げていたころは、一部の社員から給与や働く環境について度を超えた要求が続いたり、ハラスメントや離職を恐れて、管理職もミスを注意することができなかったりした。その結果、会社内で不平等感が漂い、頑張っている社員や若手社員の退職が相次いだそうだ。

 そこで離職だけに固執せず、会社の本来のゴールを達成する人材育成と、会社の役に立ちたいと思ってもらえる社員を増やすことに焦点をあて、人事制度の再構築やミッションの策定に取り組んだ。互いの強みを活かし、弱みやできないことを助け合う風土づくりに2年間努めたという。

 離職ゼロに固執しないということはとても勇気のいることだったと思うが、視点を変え、会社が目指す姿を形にしようと決断された経営者や管理職の皆さまには、本当に頭が下がる。

 とはいえ、離職されたら困るのも本音だ。ならば、何を目指し、何のために取り組むのか。そのヒント探しへ「どんな理由での退職者を減らしたいのか」と自問するのも一つだ。

(ワダチラボ社長)

次回は照屋ゆきの氏(照屋食品社長)です。

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