(ブルームバーグ): 今年の春闘の好調な結果が反映される中、基本給が1993年1月以来の高い伸びとなった。物価高の影響で実質賃金はマイナスの状況が続いているものの、追加利上げの時期を探る日本銀行にとって賃金面からはプラス材料となり得る。

  厚生労働省が8日発表した5月の毎月勤労統計調査(速報)によると、名目賃金の現金給与総額は前年同月比1.9%増と11カ月ぶりの高水準だった。増加は29カ月連続。基本給に当たる所定内給与は2.5%増と前月(1.8%増)から伸びが加速した。

  エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目するサンプル替えの影響を受けない共通事業所ベースでは、名目賃金が2.3%増。所定内給与は2.7%増と、同ベースでの公表が開始された2016年以降で最高となった。

  日銀は2%の物価安定目標の実現に向けて、需給ギャップやインフレ期待、賃金上昇率などを反映する基調的な物価上昇率の動向を重視している。今年の春闘の平均賃上げ率は5.10%と33年ぶり高水準を実現しており、賃金上昇の勢いが今後も持続するかが焦点となる。 

  大和証券の末広徹チーフエコノミストは、一般の所定内給与は「7月ぐらいまでみれば3%が一応見えてきた」と指摘。実質賃金のプラス転換は電気・ガス代の値下げが反映される「7-9月の間」と予想している。

  物価の変動を反映させた実質賃金は1.4%減と26カ月連続で前年を下回り、マイナス幅は前月から拡大した。実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は3.3%上昇と再び3%台に伸びが加速したことが影響した。

  モルガン・スタンレーMUFG証券の乾真之エコノミストらは3日付リポートで、昨年のベースでは46.4%の企業が5月分の給与支払いに春闘の結果を反映させていたため、5月の毎月勤労統計は「春闘から賃金データへの波及を考える上で重要となる」と指摘。「日銀は、それらの情報と春闘の最終集計結果を併せて賃金動向の把握を進め、7月の金融政策決定会合に臨む」との見方を示していた。

  ブルームバーグが6月会合直後の25日に実施したエコノミスト調査によると、43人のうち33%が、国債買い入れの減額計画を決める7月会合での追加利上げを予想している。

日銀の国債購入減額計画と利上げの同時決定、3割超が予想-サーベイ

  大和証の末広氏は、実質賃金がプラスに転換しても「個人消費の数字が弱いため、そこは見極めが必要ではないか」とも指摘。7月会合での利上げは難しく、「日銀はデータがそろえば9月、10月の利上げを狙っているのではないか」とみている。

  総務省が5日発表した5月の実質消費支出は前年比1.8%減と、市場予想に反して2カ月ぶりに減少。食料への支出が減るなど、物価高が影響した。鈴木俊一財務相は同日の閣議後会見で、停滞している個人消費の喚起策として「物価高を上回る賃上げを実現していくこと」の必要性に言及。大幅な賃上げを達成した後でも、足元のインフレに懸念を示していた。

  岸田文雄首相は先月、5月使用分で終了していた電気・ガス料金への補助を、「酷暑乗り切り緊急支援」として8月から3カ月間限定で再開すると表明。燃油激変緩和措置は年内に限り継続する。  

--取材協力:横山恵利香.

(チャートとエコノミストコメントを追加して更新しました)

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