特集は長い歴史に幕を下ろす銭湯です。95年に渡り、市民憩いの場となってきた塩尻市唯一の銭湯が6月末で閉じられることになりました。惜しむ声を受けて経営者は後継者を募集しています。
■僕らの体力の限界…
タイル張りの浴槽に、昔ながらのプラスチック製の桶。昭和の面影を残す銭湯「桑の湯」。
この日も多くの客でにぎわっていました。
常連客:
「最高です。温泉とまた違った良さがありますよね」
このにぎわいには「訳」があります。
客:
「趣のある見た目がすごくいいし、なくなっちゃうのがもったいない」
銭湯に張り出された「閉店」の知らせ。
4代目の桑沢弘幸さん(53)は6月末で「桑の湯」を閉じることを決めました。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「機械の老朽化もあるんですが、一番はもう僕らの体力の限界ですね」
■創業は昭和4年
創業は昭和4(1929)年。製材業を営んでいた曾祖父が廃材を活用して始めました。
桑沢家に残っていた映像、昭和50年ごろとみられます。入り口はさほど変わりませんが浴室の壁には今はない絵が描かれていました。
このころは3代目の父・英晴さんが銭湯を支え、毎日、にぎやかだったと言います。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「昭和の僕が生まれた頃とか、その前はお客さんがすごかったみたいです。人数制限しなきゃ入れないくらいで」
■苦渋の決断「胸が痛みます」
しかし、5年前、英晴さんが他界。弘幸さんが4代目となり、母・節代さん(80)と営んできましたが、二人の体力や老朽化を理由に銭湯を閉じることに。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「もう無理だという、決断のつらいところで、苦しいところですね、胸が痛みます」
母・節代さん:
「いつかはやめる時が来るだろうと思っていたので、その日が本当にやってくるんだなと。建物も傷んできましたし、だましだまし毎年傷んだところを直したけど、もう大変で」
■「後継者を探してみては」
ところが、閉業を知らせると客から「なんとか続けてほしい」との声が相次ぎました。
心を痛めていた弘幸さんに地元の企業から「ある提案」がありました。
「後継者を探してみては」
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「閉業しか道がないと思っていた。いろんな人のアドバイスで、こういうこと(後継者探し)ができると方針転換ができた」
企業の協力で6月3日から始まった後継者募集。銭湯などの運営経験などが条件ですが、既に3件の応募があったそうです。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「なくすんじゃなくて、後を譲るということができる段階まで来まして、跡を継いでいただければ自分としては一番うれしい」
■季節、天気、気温、その日にあった湯加減を
後継者に望みをつなぎ…。
いつものように釜場の火入れで一日が始まります。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「小さな炎から炎を大きくしていくのがうちの一日の始まりです」
重油やガスで湯を沸かす銭湯が多い中、桑の湯は製材業を辞めてからも解体業者などから廃材を譲り受け薪で沸かし続けてきました。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「きょうもいい湯加減です。季節、天気、気温、その日にあった温度を設定してあるんですけど、最後は人間の肌じゃないとわからないんで」
■常連客「日常の風景が…」
午後3時ー
「いらっしゃいませ、どうぞ」
オープンと同時に常連客が入っていきます。
こちらは30年以上の常連客。2日に1度は利用してきたということです。
30年以上の常連客:
「やわらかいですよ。油(でたいて)じゃないから、ひりひりしない。(なくなるのは)寂しいです。お疲れさまでした、お世話になったからありがとうございましたと」
上田市から来た大学生4人組。
大学生:
「3月ごろにSNSで廃業の告知があったから(来た)。こういう見た目の風呂屋ってなかなかないんですけど、なくなってしまうのは残念」
こちらは、50年ほど通っていた男性です。
諏訪から:
「昔は、来れば近所の人がいたり、同級生のお父さんお母さんがいたり、僕にとって日常の風景なんですね、これ。それが今、非日常で、もう見られなくなる景色になっているのが残念」
■小学2年生からラブレター「ここが好き」
スタッフが休憩の間、節代さんが番台に座りました。
するとー。
女湯の客:
「おばあちゃんだ!大当たり!」
女湯にやって来た常連の親子。
桑の湯に手紙を書いてきました。
桑の湯・桑沢弘幸さん
「これもうラブレターじゃないですか、ありがとう。おじちゃん、ちょっとラブレターもらっちゃって照れます」
手紙を書いた小学2年:
「(どんなことを書いた?)おばあちゃんの方には、『やさしくしてくれるおばあちゃんが好きだよ』って、お兄さんは『かっこいいお兄さんが好きだよ』って」
母・節代さん:
「ありがとね」
「うれしいですね、普通だったらお友達になれませんね、80のおばあさんがね。ここで行き会えてよかった」
手紙を書いた小学2年:
「(銭湯好き?)好き!銭湯が好きなんじゃなくて、ここが好き」
■「お湯より暑い気持ちを持った人にお願いしたい」
多くの市民に愛されてきた桑の湯。
6月30日で95年の歴史に一度幕を下ろしますが、桑沢さんは後継者が現れ銭湯が続くことを願っています。
桑の湯・桑沢弘幸さん:
「うちのお湯よりも熱い気持ちを持った人。銭湯に命を懸けるって言ったら大げさなんですけど、そういう方に来てもらって、後をお願いしたいなと思っています」
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