生成AIの登場により「将来的になくなるかもしれない仕事や職種」という話題はよく見かける。

これまで人間が行ってきた業務の数々が、生成AIに代替されるかもしれないが、はたして、どんな仕事職種に異変が起こるのか。

計算機械科学者でメディアアーティストの落合陽一さんは、「データを扱う仕事ほど代替されるかもしれない」という。

著書『落合陽一責任編集 生成AIが変える未来 ―加速するデジタルネイチャー革命―』(扶桑社)から「生成AIによってあり方が変貌する仕事」について一部抜粋・再編集して紹介する。

「人vsデータ」は置き換えられやすい

世の中にはさまざまな仕事があります。

それらをいくつかのタイプに分けたとき、最も生成AIによって置き換えられやすいのは「人 vs データ」の仕事だと僕は考えます。

データを直接いじれるタイプの仕事は、生成AIの得意ジャンルのひとつです。

AIとはある条件を最適化する計算装置です。人間よりも圧倒的に膨大な量のデータを読み込み、その中から最適化されたものを選び抜く力があります。

データを扱う仕事ほど生成AIに代替されるかもしれない(画像:イメージ)
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だから、データを扱う仕事ほど、生成AIに代替されやすいと言えるかもしれません。

これは物理的な処理を人が担わなくても、データ化されているものの操作が人の仕事になっているようなものです。

たとえば、生成AIはコードを書いたり、プログラミングを組んだりするのが得意です。

まさにそれらを生業とするソフトウェアエンジニアが日本には大勢いますが、こうした仕事は、生成AIに置き換えられる可能性が高い。

ということは、今後ソフトウェアエンジニアが生き残るには、コードを書くよりも高度な技術が必要になるのです。

2024年2月、ドバイで開催されたWorld Goverments Summit 2024で、AI分野のトップ企業「NVIDIA」のCEO・ジェンスン・フアン氏も「プログラミングはAIが代替するので、もはや人間に不可欠なスキルではない」と発言し、波紋を呼びました。

友だちのように対話できる「Cotomo」

事務職やカスタマーサービスなど、書類やマニュアルでの音声やテキストなどの「データ」を扱う仕事も、業務効率化されやすい仕事の代表格です。

代表的な生成AIであるマイクロソフトの「Copilot」は、書類作成からメール返信までさまざまな事務作業をサポートしてくれます。

これらが進化すれば、各企業ではいまほど大勢の事務職を雇う必要がなくなるかもしれません。

カスタマーサービスにしても、ChatGPTの音声モードなどを利用してみると、現段階でもユーザーの質問に対してかなり精度の高い回答をくれることがわかります。

「生成AIとのやりとりなんて、まだまだ機械的なものに違いない。それなら人間のほうにまだ分がある」と思う人もいるかもしれません。

でも最近では、自分で相談相手のテンポから性別まで自由にカスタマイズできる音声会話型おしゃべりAIアプリ「Cotomo」なども存在します。

CotomoのAIは、感情表現もできるし、自分と以前交わした会話を覚えていてくれるので、対話を続けていくうちにリアルな「友だち」との対話のように情報が積み上げられ、親しみを増していくのも特徴です。

ナチュラルな会話すらも生成AIが再現できる時代になったのです(しかも自分好みに調整まで可能!)。

実際にChatGPTの音声バージョンやCotomoに触れてみると、その進化を実感できると思うので、ぜひ一度使ってみてほしいと思います。

弁護士や会計士も代替される!?

データを扱うという点では、士業もあり方が大きく変貌するであろう仕事のひとつです。

2023年6月に、日本の企業法務支援のスタートアップが、OpenAIの大規模言語モデル・GPT-4をベースに開発した生成AIを利用して、日本の司法試験の一部科目を解かせたところ、その正答率は合格水準を達成したと発表しています。

こうした動きを見ていると近い将来、弁護士や会計士、税理士などの仕事が代替されていく可能性は高いと感じています。

人と接する仕事は代替しにくい

続いて取り上げたいのが、「人 vs 機械」という構造の仕事です。

機械を操作したり、修理したりする仕事は、「人 vs データ」にまつわる仕事に比べると、生成AIによる置き換えがしづらいと感じます。

たとえば、先ほど「ソフトウェアのエンジニアは、生成AIに徐々に業務が置き換わっていく可能性がある」とお伝えしましたが、同じエンジニアでもハードウェアのエンジニアは、「人 vs 機械」を扱う仕事なので、大きな変化は起こりづらいはず。

機械に接する仕事はAIだけで完結しにくい(画像:イメージ)

その点で言えば、自動車工や整備士など実際に機械に接する仕事は、生成AIのサポートを受ける部分はあるかもしれませんが、仕事自体がAIだけで直接処理が終わるようになることは少ないのではないでしょうか。

生成AIが発達したあとも、あまりかたちを変えずに残り続けるであろうと思うのが、「人 vs. 人」の仕事です。

人と対面で接することで成立する仕事は、生成AIでは代替できません。

たとえば、医者や運転手、管理職、教師など、対面が基本となる仕事は、時間がたっても、現代の我々が想像する形態で残り続ける可能性が高いように思います。

ただ、これらの予想はあくまで現時点のものです。そこで、未来の仕事について知りたい人に実践してほしいのが、「この仕事は生成AIの登場によって、将来的にはどのような変化を遂げるのか?」と生成AIに質問してみることです。

その回答次第で、ご自身の仕事に関する新たなアイディアや方向性が生まれていくかもしれません。

大切なのは“一次情報”に触れること

インターネット上には、年々膨大な情報が溢れかえっています。その中には、当然フェイクの情報も交じっています。

メディアやSNSが発信する情報はもちろん、ときには国家が発信する情報であっても、虚偽の情報が入り込むことがあります。

残念なことに、デマ情報は広がるスピードが速く、そのデマを否定する情報はいつまでたっても追いつけません。

今後、生成AIが発達するにつれて、「いかにも本物っぽいデマ情報」に、私たちが惑わされる可能性も高まっていくでしょう。

正しい情報に触れるには、きちんとその情報のソースを調べ、バイアスを排除して、自分の頭できちんと考えるしかありません。その上で大切なことは何か?

それは、“一次情報にあたる”ことです。

一次情報とは、自分自身が直接体験したり、実験したりした結果、得られた情報を意味します。

一次情報に触れる方法はいくつかあります。

まず、僕が最も効果的だと思う方法は、「一次情報を持っている人に会って話を聞くこと」です。

つまり、何かしらの専門家に直接会いに行って、話を聞く。

対面の場合は、自分が疑問に思った点は直接その場で質問することも可能です。

僕の場合は、番組を持っているので、いま興味のある専門家の方をゲストに呼んでは、定期的にお話を聞くようにしています。

論文など一次情報を得ることが大事(画像:イメージ)

そのほかに、一次情報を得る方法として挙げられるのが、「論文を読む」こと。

コロナ禍以降は、無料でアクセスできる論文も増えました。学術論文は、基本的にはすべて英語で書かれていますが、文章生成AIなどを使えば、日本語翻訳もしてくれるので、以前よりも読みやすくなったと思います。

余談ですが、僕の講義で「鬼コース」を選択した学生たちには、原著論文を毎週100本読むように伝えています。

まるで鬼のようなハードワークに見えるかもしれませんが、膨大な量の原著論文に触れることで、自分が専攻する分野の最新の潮流を知ってもらえるからです。

これで、調べるのもまとめるのもずいぶん楽になりました。あとは、自分の身体を使って美術館や博物館に行き、本物に触れる体験をするのもいいでしょう。

また、ニュースから情報を得る際も“一次情報にあたる”ことを心がけましょう。

ニュースをまとめたものやニュースを引用した発信を鵜呑みにせず、報道機関が初めに報道した大元の情報を調べることが大切です。

『落合陽一責任編集 生成AIが変える未来 ―加速するデジタルネイチャー革命―』(扶桑社)

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