「方針決定だけで、具体的な話はこれからか」と、肩透かしの感を受けました。

3月にマイナス金利政策を解除した日銀が、「金利」だけでなく、「量」の引き締めにも踏み込むことになるのですが、円安抑止のパンチ力は弱く、発表を受けた為替市場では、一時、1ドル=158円台まで逆に円安が進みました。

7月に具体的な減額計画を決定

日銀は14日、政策決定会合で日銀が買い入れている長期国債の額を、今の月6兆円程度から減額する方針を決定し、次回、7月の政策決定会合で、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決めることになりました。

異次元緩和によって日銀は市中に流通する国債を「爆買い」し、マネーの量的緩和を推進してきました。

その結果、異次元緩和前には91兆円だった日銀の国債保有額は、今や590兆円と6倍以上に膨れ上がりました。

GDP比でほぼ100%に達していて、欧米の15%~30%に比べて突出しています。

国債は満期が来れば償還されるので、ずっと持ち続けていれば、いずれは保有額ゼロになるわけですが、現在は、市場に不測の事態が起きないように、毎月の償還額にほぼ匹敵する6兆円程度の国債を新たに買い入れ、保有額がほぼ現状維持になるようにしています。

今回の方針決定によって、日銀の国債保有額は、規模はともかく、減少することになります。

円安対応策を迫られた日銀

もっとも、今回の決定は「減額の方針だけ、額は後から」という内容で、事前に想定された中では、ミニマムと言える中身でした。

いわば議論が生煮えの状態で、ミニマムでも打ち出さざるを得なかったところに、円安で追い込まれた、今の日銀の厳しい立場がうかがえます。

円安に歯止めが効かなくなったことが大きな誤算でした。

アメリカの景気が強く、予想外に利下げが後ずれしているため、円安が1ドル=160円という歴史的な水準にまで進み、明らかに日本経済の下押し要因になっています。

日米金利差を縮小したいのであれば、本来は、日本が利上げするのが正攻法です。

しかし、春闘の結果を受けた実際の賃気上昇が未だ確認途上の段階にある上、短期金利の引き上げは、あらゆる金利の引き上げに直ちにつながってしまいます。

景気の足腰が強くなったことを確認しなければ、まだ利上げには踏み切れないと言うのが、植田総裁の本音でしょう。

そこで急浮上したのが長期国債の買い入れ減額です。

国債の買い入れを減額すれば長期金利は一定上昇するでしょうが、短期金利と違って、貸出金利への影響は、固定型の住宅金利や大企業向けの長期融資など限定的です。

また、長期金利が急騰するような事態になれば、臨機応変に日銀が買い入れを増やすと言った柔軟な対応も可能です。

日銀にとっては、利上げより、「やり易い」策でした。

金利急騰を避けたい以上、円安抑止効果は限定的

とはいっても、日銀は長期金利の大幅な上昇は避けたいと考えています。

長期金利が急上昇すれば、日銀が保有する膨大な国債の価格が下がり、膨大な含み損を抱えることになります。

中央銀行が時価会計で一時的に債務超過になっても全く問題ないというのが、日銀の公式見解ですが、そうした事態は避けるに越したことはありません。

また長期金利の上昇は、政府の国債の利払いの増加を招くので、なるべく緩やかにしたいところです。

このように、本音では、長期金利を大きくは上げたくないのですから、要は「腰が引けた」円安対応策にしかなりません。

現在の長期金利は、日本が1%に乗るかどうか、アメリカは4%台です。

日本の長期金利がコンマ何%上がっても、それだけでは円安抑止効果は限定的というのが大方の見方です。

金融・財政正常化への長い道のり

東短リサーチの加藤出さんの試算によれば、今の月6兆円の国債買い入れ額を、5兆円にした程度では、2年(24か月)後の日銀の国債保有額はわずか3~4%程度しか減りません。

アメリカのFRBが現在行っている、2年で2割弱いう保有国債削減のペースにするには、月2兆円程度にまで買い入れ額を削減しなければならないということです。

月6兆円の買い入れを、いきなり月2兆円に減らすのは、ちょっと現実的ではありません。

それぐらい、日本の国債発行残高や、日銀の保有割合は大きいのです。

国債減額の前提になるべき、財政赤字削減策はまだなんら示されていません。

国債の発行額が減る目安など立っていないのです。

マイナス金利を解除し、異次元緩和を脱却した途端に、私たちは、そのツケの大きさに直面しているとも言えるでしょう。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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