以前から、“宿泊客が少ない”などの課題が挙げられている奈良県は、観光戦略本部を立ち上げて、15日に初会合を行った。そこで委員らに示された資料には、奈良観光のマイナス面をはっきり示す衝撃的なキーワードが並んでいる。

結論『現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い』

これはどういうことで、誰が作成したのか。資料を読みとき、県の担当者に話を聞いた。

◆安い=観光消費額が少ない

奈良県を訪れる観光客は、一定数いる。コロナ前の2019年は全国19位(4500万人)、インバウンド客に至っては2位大阪、4位京都に続く全国トップクラスの5位(350万人)。

それにもかかわらず、1人あたりの観光消費額5308円は、全国平均の9931円に大きな開きがある。

日帰り客の消費額、6年間平均を見ると、飲食費は1344円。土産代は1156円。入場料は369円。飲食費はランチ代+飲み物程度か。

こうしたデータから圧倒的に「奈良観光は安い」ことがわかる。入場料の平均369円といったところから、県は体験やアクティビティなどの消費額はほとんどない、と分析している。

◆浅い=滞在時間が短い

奈良県で宿泊する客は非常に少ない、これは昔から課題に挙げられている。過去9年はほぼ46位、最高は44位で、最低は47位だ。

外国人訪問者数が全国5位に達した2019年も、外国人宿泊者となると全国24位に沈んでいる。

奈良を訪れた観光客の94%は日帰りを選ぶ。宿泊者の割合は6%、これは和歌山県の半分の値だという。

◆狭い=奈良公園周辺ばかり

人流は、年間通じて奈良公園エリアに集中。桜シーズンの吉野には人流のピークがあるものの、飛鳥、橿原、平城宮跡などほかの地域にピークはほぼない。

インバウンド客に限ると、なんと85%が奈良公園周辺だ。県は誘客イベントをするにしても、奈良公園周辺以外には、飲食店や宿泊先の受け皿環境がないとした。

また、観光客が来訪するのを待つ「大仏商法」の側面が否定できないとした。

◆結論を三拍子にしたのは奈良県自身だった

こうしたデータを基に、「現在の奈良の観光は 安い 浅い 狭い」の三拍子で結論づけられた。これを作ったのは、奈良県自身だった。

県の担当者によると、原案は観光戦略課が作成し、その後上司に上がるなど、県として資料をまとめ上げていく中で、結論部分は『端的にまとまった、わかりやすい言葉が必要』という意見が出たという。

その結果、奈良県自らが『安い、浅い、狭い』の三拍子を打ちだした。『浅い』は『滞在時間が短く、深い魅力を知ってもらえていない』の意。ある意味自虐的にも聞こえるが、その心は、課題を明らかにしてテコ入れし、変えていこうとする姿勢のあらわれだという。

山下真知事「素材は良い、ポテンシャルはある」

初会合を終えた山下真知事は、奈良県について「素材は良い、ポテンシャルはある」と話した。

観光戦略本部は、2030年度の数値目標を、宿泊者数500万人(273万人)、一人当たり観光消費額は6000円(4569円)などと定めて、これまでのように県全体を対象にしたプランニングではなく、各地の状況にあわせて、小さいところからはじめるという。

奈良の観光は「高い、深い、広い」に変わることはできるだろうか。戦略本部は、各地で観光地としての「磨き上げ」などが必要だとしている。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。