去年中国で4つのことをしない若者を“四不青年”と呼んでいた。即ち“恋愛しない”“結婚しない”“子供を産まない”“家を買わない”という若者が増えていることを指していた。
ところが1年たって今中国でSNSを中心に広まる言葉は“十不青年”だ。
“しないこと”が4つから10個に増えた中国の若者。果たしてその10個とは?
そしてその根底にあるのは中国のソ連化だという。

「社会の流動性が非常に低下して、頑張っても親が(財産を)持ってなければ上に行けない」

“十不青年”とは…。
「結婚しない」「子どもを産まない」「家を買わない」に加えて、経済的不安から夢が持てないためか「宝くじを買わない」「株を買わない」「基金に投資しない」
過去の事件の影響によって「老人を助けない」「寄付をしない」
前者はかつて、倒れた老人を助けたところ、その老人から訴えられて助けたつもりの若者が罪に問われたことがあったという。裁判官が「なぜ助けたのか」と言って話題になったそう。後者は赤十字を語る寄付金詐欺が横行したためだ。
さらにケガをした有力者が権力を行使して旅行先で献血させたという出来事への不信感から「献血しない」、そして10個目は国家に目を付けられないように「(不満など)感情を出さない」だ。

10項目のパネルを持って旅行で日本に来ている中国人に聞いた。彼らは比較的生活にゆとりがあるはずだが…

「生活のプレッシャーが大きいと欲が低くなる。大きな都市では生活コストが高くなる。収入が増えていないので比較的欲も持たなくなる。多くの若者がこの“10のこと”をしないのは確かだ」(40歳・中国男性)

「私の周りには結婚しないし子どもを産まない人もいる。国に不満があるのは若者が必ず経験すること。政府が国のために押し出す政策は必ずしも人民のためのものじゃない。でも不満などの感情を表に出さないのは正常な反応だと思う」(18歳・中国女性)

「子どもは産まない。感情を出さない。この2つは当てはまるかも…。自由な生活が欲しいし、中国で子供を育てるのはとてもプレッシャーが大きい。感情を表さないのは周りに影響されたくないから」(28歳・中国)

今、中国の若者は生き辛さを感じている。最大の原因は中国経済の悪化だ。
16歳から24歳の若者の失業率は約15%と高い。高齢者に低価格で食事を提供する高齢者食堂にも若者の姿が目立つ。食堂のスタッフは言う…。

高齢者食堂のスタッフ
「高齢者と若者だいたい半々くらいですかね。若者の方が多い時もある。味が大衆向けだし値段が手ごろだからでしょう」

この“十不青年”のような若者について現代中国を研究する呉軍華氏はこう分析する。

日本総研 呉軍華 上席理事
「この世代は中国経済がどんどん成長している時期に生まれ育った世代。景気が悪い状態を経験していない。それが今のような経済状態は初めて…。不動産価格の高騰で家は買えない、社会の流動性が非常に低下して、頑張っても親が財産を持ってなければ上に行けない。社会階層が固定してる。そうすると先に対して希望を持てない…」

いわゆる“親ガチャ”が中国ではより深刻化しているようだ。
北京や香港など中華圏に10年以上住んだ日本経済新聞の元中国総局長、高橋氏も中国の若者が置かれた現状を憂う。

日本経済新聞社 高橋哲史 編集委員
「大学出ても就職出来ない。若者の失業率15%って公表されてますが実態はもっと高いだろうと思う。老人を助けないって一番びっくりした。10年くらい住んでましたが、儒教文化が根付いている中国で(10年前は)地下鉄乗っててもバスでもすぐ老人に席譲る。私だって譲られたくらい。それが席も譲らなくなる程、道徳心もなくなる、やる気もなくなる…(中略)仕事がなくて若者の消費が増えない。物が買えない、これが大きく響いてるんだと思います」

若者の未来を閉ざした中国経済の悪化。単なる不動産不況ではないようだ。呉軍華氏は「中国はソ連化し始めた」という…。

「民間企業のシェアが大きくなってくると共産党がコントロールできなくなるという懸念」

中国で“建国の父”といえば毛沢東氏だが、“近代化の父”といえば鄧小平氏だ。
80年代から改革開放路線を歩み約35年かけて世界第2位の経済大国を築き上げた。
これに対し毛沢東思想への回帰とも取れるのが習近平思想だ。つまり全てを共産党主導で推し進めようとする体制だ。この動きに「中国が何故改革開放をせざるを得なかったかといえばソ連スタイルの(社会主義)経済が上手くいかなくなったからなのに、中国はもう一度ソ連化に向けて動き出した」と語るのは呉軍華氏だ。

日本総研 呉軍華 上席理事
「ソ連化経済の最大の問題を2つに集約すると、一つは国有企業。全体国有…。もう一つはソフトな予算の制約。会社の経営が上手くいかなくてもつぶれない。この二つでソ連・中国・東欧みんなダメになったんです。それを中国が改革して、80年代国有企業を縮小して民間企業を拡大。それに伴って予算のハード化…民間企業ですから。それで経済全体として生産性が高まって…。グローバル化で輸出が大きく伸びて経済がここまで来たんですね(中略)でも民間企業のシェアが大きくなってくると共産党がコントロールできなくなるという懸念が生まれてくるんです…」

宮本雄二 元駐中国日本大使
「習近平思想は党の方針で党規約に入っている。それを正面から反対はできない。しかし習近平氏が最も難しかったのは経済なんです。イデオロギー中心でやってきたのでが外交や安保はそんなに祖語はなかった。しかし経済は現場がすぐに結果を出すわけです。うまく行くか行かないかは習近平思想でなく、どういう政策を取ったらどういう結果が出るかということなんです。しかし官僚に聞くと経済立て直しのためにやりたいことをやらせてくれないと…かたや経済を回復させろと言われ、そうじゃないことを求められるというんです」

党の力を保つために、かつて失敗したソ連的経済路線を歩もうとする中国…。
若者が“しなくなること”が、10個では済まなくなるかもしれない。

(BS-TBS『報道1930』5月6日放送より)

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