政府は5年に1度、年金財政の今後の見通しを公表することになっている。それが今年だ。
思えば5年前“今後の見通し”として「老後には年金以外に2000万円必要」と報告されるところを時の金融担当大臣(麻生太郎氏)が報告書を受け取らなかったことが話題になった。あれから5年、物価高、円安、実質賃金低下など経済的環境が悪化している中、少子高齢化は加速度的に進んでいる。年金事情を有り体に言えば“お先真っ暗”だ。
そこで番組は世界で最も年金が充実しているという国、オランダに目を向けた。何かヒントは見つかるのだろうか?
「年金受給開始年齢の引き上げを発言…、大問題になってすぐ取り消す」
かつては60歳から年金がもらえた。それが少しずつ先延ばしされて来年から65歳からの支給になる。しかし国はもっと先延ばしたいのか“75歳から受け取れば84%割り増しされますよ”とささやく…。ある高齢者は街頭インタビューにこう答えた。
「働き続けなきゃいけない老後って悲しいなぁっと思うんですよね。だって体力って限界あるでしょ。だから早めに退職して自分の持ってる体力で人生を楽しむ分に回せないって人生寂しくないですか…」(巣鴨・年金生活者)
“人生100年”といわれ確かに長寿国ニッポンの寿命は伸びてきた。しかし、健康上の理由で行動を制限されない“健康寿命”は男性72.68歳、女性75.38歳(2019年)だ。つまり75歳から年金をもらうのは“通院費のための年金”(番組ニュース解説堤伸輔氏)と言っても言い過ぎではないだろう。20歳から60歳まで40年間保険料を納付したのだから元気なうちに受給して老後を楽しみたいのが人情だ。
ところが今検討されている改革案では基礎年金保険料の納付を65歳まで延期しようとしている。そして受給年齢は先に延ばされるかもしれない。
ただ年金受給年齢の引き上げは、マラソンの距離をスタートしてから延長するようなものでどこの国でも簡単には実現できない。民主党政権時代に厚労相政務官として年金問題に取り組んだ山井議員は言う。
立憲民主党 山井和則 国対筆頭副委員長
「時々厚生労働大臣などが年金受給開始年齢の引き上げを発言するんですが大問題になってすぐ発言を取り消すんですよ。これは国民からすると一番NGな話なんです。ただ年金受給開始を1年遅らせると年金額は1割増えるんですよ。だから…」
結局、野党の山井議員も受給開始を遅らせた方が自己防衛になるという理論を展開した。
やはり国は1年でも長く保険料を納めてほしく、1年でも遅く受給してほしいようだ。
この我が国の年金制度、ある調査によると6段階の下から2番目のランクだという…。
「老後を貧しく過ごす人たちと老後を楽しんでいる人たちがいると社会の調和を壊す」
世界有数のコンサルティング・ファーム『マーサー』が年金の“十分性”“持続性”“健全性”に基づいた「グローバル年金指数」のランキングを発表している。対象となった47の国と地域の中で日本は30位。6段階に分けられた下から2番目ランクCだった。
最上のランクAは4か国。4位イスラエル、3位デンマーク、2位アイスランド。そして1位はオランダだ。オランダの年金と日本の年金、何が違うのだろう?
オランダの大学で年金制度を研究するバウアー教授に話を聞いた。教授によるとオランダの年金は現役時代の給料の約7割に当たる金額(平均日本円で月額37万円)が支給されるという。
オランダ・マーストリヒト大学 ロブ・バウアー教授
「オランダでは9割の人が厚生年金(職域年金)に加入していて基礎年金と厚生年金の両方が支給される。(中略)日本ではどうかわからないがオランダでは年金をもらえる人ともらえない人で二極化にならないように気を付けている。老後を貧しく過ごす人たちと老後を楽しんでいる人たちがいると社会の調和を壊すことになりかねないから…」
オランダの年金システムも日本と同じ「基礎年金」と「厚生年金」の2階建て。「基礎年金」はこれも日本と同様、国民がみな加入して保険料を、現在の年金受給者に給付する「賦課方式」だ。保険料は収入の18%くらい。
だが、2階建ての2階部分「厚生年金」が日本とは大きく違う。日本では会社員だけが加入しているがオランダでは自営業者もフリーランスも含む。働く人の9割が加入する。保険料は職種によって異なるが公務員で10%くらいだ。さらに「基礎年金」のような「賦課方式」ではなく、自分が納付した保険料を老後に自分が受け取る「積み立て方式」なのだ。オランダでも少子高齢化は進んでいるが、「積み立て方式」によって日本ほどの影響はでないという。
オランダ・マーストリヒト大学 ロブ・バウアー教授
「年金基金には(厚生年金だけで)GDPの2倍ほどの積立金がある。私たちは非常に大きな貯蓄をしていてその大部分を年金として蓄えている。(中略)国民が高齢化すれば年金の支給開始の年齢も(自動的に)後ろ倒しになる(制度が法制化された)。この法律が施行された当時は(開始年齢は)65歳だったが、それから支給開始年齢は上がって(現在67歳から)、私が受給する頃にはおそらく68歳くらいになっていると思う…」
「年金改革に打ち出の小槌はない」
どの国の制度もいいことばかりではない。
オランダでは2つの年金合わせて給与のおよそ3割を保険料として納付している。更に高齢化による支払い年金の赤字分を国が補填する、つまり税金だ。それもあってオランダの消費税の基本税率は21%、日本の倍以上だ。もっとも医療費も教育費も無料だが…。つまりオランダ国民は他の北欧諸国などと同様“高負担・高福祉”を是としているのだ。
Z世代など若者の行動や価値観を調査する長田麻衣氏はオランダ型の年金制度を聞いて率直な意見を言う…。
『SHIBUYA109 lab.』長田麻衣 所長
「(年金)給付額で凄く魅力的だなって思ったんですが、今から給料の3割が取られてしまうって考えると、それは生活できないなぁって…。(中略)積み立て方式はいいかなと…自分に確実に戻ってくるものなら、今の上の人たちの分の賦課方式分と両軸で、ちょっと頑張れるかなぁって」
年金額が多いに越したことはないが、負担が増えるのは困る。これも本音だ。日本はなぜか長年“低負担・高福祉”に馴染んでしまってきた。無理が生じるのは必然だったかもしれない。どうすればいいのだろうか…?
公的年金調査室長を兼務する経済学博士、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏は言う。
ニッセイ基礎研究所 中島邦夫 上席研究員
「オランダから学ぶのは将来の年金のためには負担しなければならないと国民が自覚しているということ。国民が同意していることが大きい。年金改革に打ち出の小槌はない」
(BS-TBS『報道1930』5月2日放送より)
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