投票を終え、指先に付けた“消えないインク”を見せる高齢の女性=インド北部ジャム・カシミール州で4月19日、AP

 世界最多の14億人が暮らすインドで総選挙の投票が続いています。6月1日まで、1カ月半に及ぶ長期戦。なぜこんなに時間がかかるのでしょうか? 「世界最大の選挙」の仕組みを解説します。

 インドの面積は世界で7番目に広い328万7263平方キロで、有権者の数は日本の人口の8倍近い約9億7000万人に上ります。日本の国会議員にあたる下院議員を選ぶ今回の選挙では、約100万カ所の投票所が設けられることになっています。

 投票が1カ月半もの長期間に及ぶのは、国土の広さと有権者の多さが影響しています。膨大な人数の担当者を投票所に配置して、州や地域ごとに7回に分けて投票が実施されるからです。

選挙用の機器をバッグに詰め込む選挙管理委員会の職員ら=インド北東部アッサム州ジョルハートで4月17日、AP

 4月19日の1回目の投票では約18万7000カ所の投票所を設置し、運営に関わった職員の数は180万人に上りました。選挙管理委員会によると、41機のヘリコプターと84本の特別列車、10万台近い車両を駆使し、これらの職員や安全を守るための治安要員を各地の投票所に運んだそうです。

時には象やラバにまたがって

 「私たちは、雪山の中でも、ジャングルの中でも入っていきます。すべての人々が投票できるように馬やヘリコプターを使い、象やラバにも乗ります」(選管委員長のラジブ・クマール氏)

馬に乗って、山間部にある投票所へ電子投票機を運ぶ選挙担当者=インド北部ジャム・カシミール州で4月18日、AP

 最も高地に設けられるのは、中国との国境地帯にある北部ヒマチャルプラデシュ州の標高4650メートルの村にある投票所です。世界各地の選挙で「最も高い場所にある投票所」と言われます。

 地元メディアによると、北東部アルナチャルプラデシュ州の山深い村では、村に住むたった1人の有権者のために、選管職員らが40キロの道のりをトレッキングして、投票所を開設したそうです。

 こうした地道な努力の成果もあってか、2019年の総選挙の投票率は、約67%と過去最高を記録しました。今回も最初に投票があった各地の投票所では、朝から多くの人々が列を作りました。

 北部ウッタルプラデシュ州サハランプルでは学校が投票所となり、出勤前の会社員や小さな子供のいる家族連れの姿が見られました。

インド総選挙で使われる電子投票機の見本=インドの首都ニューデリーで4月15日、ロイター

シンボルマークを選び投票

 投票所では、女性の有権者も安心して投票できるように、男女が別の列に分かれて並びました。入り口の壁には、「賄賂を受け取ってはいけません」「他人になりすますのは犯罪です」などと、投票にあたっての注意事項が張られていました。

 有権者は電子投票機のボタンを押して投票します。3期目を目指しているモディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)は「ハスの花」、最大野党・国民会議派なら「手のひら」といった具合に、それぞれの政党にシンボルマークがあり、文字が読めない人でもマークを見て選ぶことができます。

1回目の投票の締め切りを前に、投票所に詰めかけた人々=インド南部タミルナド州で4月19日、AP

 投票所前で待っていると、投票を終えたことを示すインクを指先に付けた人々が次々と出てきました。工場を経営するサンジェイ・グプタさん(59)は「投票権を行使するのはとても大切なことです。出張の予定があったけれど、投票日だったのでキャンセルしました。毎回、家族や友人にも投票に行くように勧めています」と話していました。

 10億人近い有権者が参加する民主主義の“祭典”で、人々はどんな政治家に未来を託すのでしょうか。6月4日に一斉に開票され、翌日には結果が出そろう見込みです。【サハランプルで川上珠実】

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