「(暗殺は)今の優先事項だ」。米国在住のシーク教徒の暗殺を計画したとしてインド人の男性が米検察に起訴された事件で、米紙ワシントン・ポストは29日、この男性がインド情報機関職員の依頼を受けていたと報じた。複数の当局者らの証言に基づく調査報道としている。暗殺の標的となったのは独立運動の指導者で、米政府は印情報機関トップが暗殺を承認していたとみているという。
事件を巡っては、米連邦検察が2023年12月、ニューヨーク在住でシーク教徒の独立運動指導者、グルパトワント・シン・パヌン氏を殺害しようとしたとして、ニキル・グプタ被告を起訴。検察は「インド政府関係者」が暗殺をグプタ被告に依頼したとしていたが、詳細は明らかになっていなかった。
報道によると、インド情報機関「研究分析局」(RAW)の男性職員が23年6月ごろ、グプタ被告らに対して暗殺は「優先事項」だと伝えた。ただ被告が雇った「殺し屋」が米麻薬取締局の潜入捜査官だったため、暗殺計画が発覚し未遂に終わった。米情報機関は証拠はないものの、モディ政権のドバル国家安全保障担当補佐官が「計画を恐らく知っていた」と暫定的に評価しているという。
グプタ被告が23年6月に拘束された後、ホワイトハウスの高官や情報機関の幹部がインドへの対応について検討した。中国に対抗するうえでインドとの協調を重視し、制裁などは科さず、暗殺を依頼したRAWの職員も起訴しなかった。8月には米中央情報局(CIA)のバーンズ長官がインドを訪れ、米側が「懲罰的な対応」を控える代わりに、インド側で責任を追及するよう求めたという。
カナダでも23年6月にシーク教徒の独立運動の指導者が殺害され、カナダ政府がインド政府の関与を主張している。
米国や日本などは、中国に対抗するためインドとの連携強化を重視している。一方で、モディ政権は強権的、人権軽視と批判されるような政策も進めてきた。今回の報道が事実であれば、改めてインドとの向き合い方の難しさが浮き彫りになったと言えそうだ。
インド外務省のジェイスワル報道官は30日、ワシントン・ポストの記事を「不当で根拠のない非難」とした上で「(この件については)インド政府が設置したハイレベル委員会が調査中だ」との談話を発表した。【ワシントン松井聡、ニューデリー川上珠実】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。