夜間にシェアサイクルに乗って開封市を目指す若者ら=中国のSNSより

 中国に赴任して驚いたことの一つに、シェアサイクルの急速な普及がある。スマートフォンのアプリに身分証を登録し、街中にある自転車のQRコードをスキャンすればいつでも利用できる。位置情報や走行ルートはGPS(全地球測位システム)で記録され、料金も最初の30分間で1.5~2元(30~40円)程度と格安だ。すでに中国各地に1200万台が配備され、人々が黄色や青色に塗装されたシェアサイクルで通勤する様子は日常の光景となっている。

 そんなシェアサイクルを巡って、中国で物議を醸したのが「夜騎開封」だ。2024年6月、河南省鄭州市の4人の女子大学生が、約50キロ離れた開封市まで名物料理を食べるため自転車で出かける様子をSNS(ネット交流サービス)に投稿。それをきっかけに大学生の間で深夜サイクリングが大流行し、11月上旬には開封市に向かう若者らは数万人規模にまで拡大した。

中国の都市部で多くの人が日常的に利用するシェアサイクル=北京市朝陽区で2024年12月11日午後1時57分、岡崎英遠撮影

 開封市は当初、経済効果を期待して沿道に休憩所を設けたり、市内の観光地を無料開放したりして大学生らを歓迎。官製メディアも「青春を謳歌(おうか)している」などと好意的に報じていた。しかし道路が若者らの自転車で埋め尽くされると、当局は態度を一変させ、開封市に向かう幹線道路での自転車走行を禁止。シェアサイクルの運営企業も、市をまたいで走行する自転車は遠隔操作で強制的に施錠すると発表した。さらに鄭州市内の多くの大学では外出禁止令を出し、学生らを学内に閉じ込めた。

 この過剰とも言える措置の背景にあるのが当局の恐怖心だ。2年前には新型コロナウイルス感染症を厳格な行動制限で封じ込める「ゼロコロナ」政策に反対する若者らの動きが、習近平指導部の退陣まで要求した「白紙運動」につながった。

 今回はほとんどの大学生らに政治的な意図はなく、単純に深夜サイクリングを楽しみたいと参加していたようだが、当局は若者らのエネルギーが体制批判に発展することを強く警戒していた模様だ。

 そして今回の大学の外出禁止措置は、ゼロコロナ政策下で各大学が実施していた手法と重なる。ゼロコロナの傷痕はさまざまなところに残るが、人々の自由を強制的に奪うことに対するハードルがさらに低くなったことも、後遺症の一つと言えそうだ。

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