サイドナヤ刑務所=シリア・ダマスカス郊外で2024年12月13日、和田大典撮影

 シリアの首都ダマスカス郊外にあるサイドナヤ刑務所は、8日に崩壊したアサド政権下で「政治犯」とされた多くの人々が収容され、拷問や処刑が繰り返されていた。13日に現地を訪ねると、行方不明の親族を捜す人たちであふれ、捜索活動が続いていた。

 サイドナヤ刑務所は小高い丘の上にあり、周囲を高さ数メートルの壁と鉄条網で囲われている。建物は3階建てで、窓のない雑居房を多数収める。鉄の扉には三重の鍵が取り付けられていた。

サイドナヤ刑務所の壁に張られた行方不明者の張り紙=シリア・ダマスカス郊外で2024年12月13日、和田大典撮影

 建物の入り口付近の地面に、無数の書類が散らばっていた。囚人の名前や罪状が書かれた書類もあり、訪れた人たちが1枚ずつ拾って丹念に読んでいる。「テロリスト」「テロ組織のメンバー」――。並んでいたのは「テロ」という言葉ばかりだ。

祖父を捜しに家族でサイドナヤ刑務所を訪れたヌール・アハマドさん(右から2人目)=シリア・ダマスカス郊外で2024年12月13日、和田大典撮影

 「ここにいるはずの祖父を捜しに来た。情報は何もない」。家族とともに訪れていたヌール・アハマドさん(22)はこう訴えた。

 大工だった祖父、ハサン・アッバスさん(55)は2014年、出稼ぎ先のサウジアラビアから車でシリアに帰国した際、シリア軍に拘束されて消息を絶った。祖父の足取りを追ったところ、約3年後、軍当局者からサイドナヤ刑務所にいると伝えられた。罪名は聞かされておらず、なぜ捕まったのかも分からない。

 反体制派は12月8日、ダマスカスを制圧し、サイドナヤ刑務所からは2万人以上が解放された。だが、祖父は帰ってこなかった。「祖父は忍耐強いから、この刑務所のどこかで生きていると信じている」

 刑務所での捜索に関わった反体制派の救助団体「ホワイト・ヘルメッツ」は9日、救助活動を終えたと発表した。だが、多くの行方不明者が残っているため、刑務所内に秘密の「隠し部屋」があるとの見方が絶えない。

地下トンネルの入り口を探すために刑務所内で穴を掘る人たち=シリア・ダマスカス郊外で2024年12月13日、和田大典撮影

 記者が訪れた13日には、建物の1階で反体制派の戦闘員らがドリルで床に穴を開けていた。この場所に「毎日、食事が運ばれていた」という証言を得たため、地下トンネルが隠されていないか調べているのだという。

行方不明の親戚の写真を掲げるヤセルさん=シリアの首都ダマスカス郊外のサイドナヤ刑務所で2024年12月13日午後4時22分、金子淳撮影

 周囲では大勢の人が集まり、作業を見守っていた。親戚を捜しているヤセルさん(48)は「(刑務所職員らが)撤収する際にトンネルの入り口がふさがれたに違いない。早く見つけて助け出したい」と訴えた。【ダマスカス金子淳】

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